六
見渡す限りの荒野。
硝煙が立ち込め、辺りにはかつて人であった者達が様々な形で倒れ伏している。
視界に映る限り立っているのは、己のみのようだ。
ふと、足元に視線を移す。銀髪の、大柄な男が怒りに満ちた表情で事切れていた。
“何故…”
男が、生前口にした言葉を思い返す。
“何故、裏切った!!”
甘い男だったと鼻で笑った。
情を交わし、身体を交わした位でよくここまで信用出来たものだと、逆に感心する。
「愚かな男よ…。」
男の髪を掴んで、首級を取る時も、取ってソレを眺めても、何の感情も産まれなかった。
風が頬を優しく撫でる。
目を開けると、風に吹かれて緩やかにカーテンがたなびくのが見えた。
「…うん?」
何か夢を見ていた気がするのだが、思い出せない…。
「……!」
徐々に頭が冴えてきて、自分の身に何が起こったのか思い出した。
「あ…。」
恐怖に震え、思わず自分の身体を抱きしめる。
最後には自分から求めていたのを思い出し、その浅ましさに、涙が流れた。
「目、覚めた?」
ベットのカーテンを開け、保健医が顔を出す。
「あっ、ハイ…。」
慌てて涙を拭き、平静を装う。
「貴女、急に倒れたらしくって運ばれて来たのよ。顔色も良くなったわね。でも、今日は大事をとって帰りなさい。担任の先生には連絡しといたから。」
矢継ぎ早に言われる。
「…はい。」
返事をして、ベットから降りようと床に足を付けた時、腰に鈍い痛みが走った。
アレは夢じゃなかったと、思い知る。
「…お世話かけました…。」
と、外に出て驚愕した。
「!」
「よう…、鞄、持って来てやったぜ。」
あの男が待っていたのだ。
「あ…」
立ち竦んでいると、腕を掴まれ強引に歩かされる。
「家まで送ってってやるよ。」
「!」
男の笑顔が、不気味に映った…。
アパートに着き、そのまま畳に突き倒される。
「!いっ…た」
そして衣服を剥がされ、無理矢理挿入された。
「!んン〜〜!!」
学校と違い、ここでは声が筒抜ける。制服の端を噛んで声を堪えた。
今、自分を侵食しているのは恐怖だけ。犯されているのとは違う類いの恐怖だった。
『アパートの場所、教えてない…!』
勿論、独り暮らしだとも言っていない。
生徒手帳でも見られたのかとも思ったが、転校して来てまだ一月も経たないのに、ここ界隈に明るい筈がない。
そこで、一つの結論が出た。
最初から、この男から逃げる術など無かったのだ…。
「ふぅん…」
自分を揺らす男に身を任せながら、静かに絶望に涙した。
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