裏黒 | ナノ

二十

顔を合わせた事は、数える程しかなかったが、その瞳は、何時も強い信念を携えていた様に思う。

だが今は、悲哀の色を宿していた。

「……ねぇ……す、……で……じち……か、……ら……」

「……か……だ」


離れているせいで、会話は途切れ途切れにしか聞こえない。

元就が、暫く呆然と二人を眺めていたら、突如、徳川が長曾我部の胸ぐらに掴み掛かった。

何か拗れたのか?とそう思い、よく見ようと目を凝らした次の瞬間、長曾我部の姿は消え、残された徳川は只、俯いていた。

そして…。

「!!」

仄暗い空間の中、真っ先に目に飛び込んだのは、微かに輝いている銀糸。

それから、少し遅れて締め付けられる痛みと、胸に熱気を感じ、数回瞬きをして、今度は現実に覚醒したのだと、安堵の息を洩らした。

『また、あの様な夢を…』

徐に周囲を見回す。閉められているカーテンからは、明かりは漏れていない。まだ遅い時間のようだ。

そして、視線を下に向けるとそこには、元就の胸元に、顔を埋めている長曾我部が居た。

夢の中とは違い、その姿は、はっきりと見て取れる。

どうやら夢見が悪いらしく、苦しそうに唸り声をあげていた。元就を抱き締めている腕に、より力が込められる。

『まさか、此奴と同調したとでも?』

長曾我部と繋がったせいで、自分の身体の中に、あの靄みたいなモノが入り込んだのか…。

『莫迦な…』

杞憂だと一笑に付そうとしたが、ここまで身体が密着しているというのに、全く嫌悪感が湧かない。

それに、長曾我部は熱に浮かされた様に、ずっと徳川の名を呼んでいた。

「……くっ…」

いい加減、締め付けられ過ぎて苦しくなり、体勢を変えようと身を捩れば、ふと袖口が目に入る。

夢で見たのと同じものだ。

『やはり、長曾我部の物であったか…』

夢の中…。

現実に引き戻される直前、ほんの一瞬、本当に一瞬だが…。









確かに徳川と目が合った。

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