十四
着いた先は、駅前にある、ファミリー向けの、高層マンション。
“確か、最上階が展望レストランになっていたな”と、高速で昇っていくエレベーターの中で、元就は何の気なしに思う。
そして、二十二階の角部屋まで来た。
門扉付きのポーチをくぐり、長曾我部は、鞄をニッチに置くと、乱雑に靴を脱ぎ捨てる。
「あ…靴…」
その長曾我部の行動に倣って、元就が自分も靴を脱ごうと、少し歩みを緩めたら、急に身体が浮いた。
今まで、締め付けられていた手の解放感と、長曾我部の顔がいきなり近付いた事で、漸く自分が抱き上げられていると気付く。
そして、そのまま、右手にある部屋に入って行き、今度はいきなり手を離された。
元就の全身が、柔らかい感触と、長曾我部の匂いに包まれる。首を横へ向けると、すぐ傍に寝具が見えた。どうやら、ベッドの上に落とされたみたいだ。察するに、此処は長曾我部の自室なのだろう。
ぼんやりと、その様な事を考えている内に、靴を脱がされ、ハイソックスに手を掛けられる。
その際、長曾我部は、怪我を負った左膝に、唇を押し当ててきた。
「…っ!」
既に青黒くなったそこは、少し触れただけでも相当の痛みを伴い、元就は小さな唸り声を上げる。
しかし、長曾我部は、聞こえていないのか、唇は離さずに足を持ち上げ、靴下を脱がした。そして、向こう脛に舌を這わせていき、その舌が足首を通って、指の股を舐める。
「そ…こは、関係ない…!」
元就は、あまりの擽ったさに、つい、上擦った声を出した。
「ハッ、良いじゃねーか別に」
長曾我部の両手が、元就のブラウスの裾へと伸びて、一番下のボタンから順に、ゆっくりと外していく。
「つーかよぉ…」
首元のボタンと、グログランのリボンを残し、元就の胸元が露になった。
「じっくり見たいしな…」
その胸元を眺めながら、長曾我部は、意地の悪い笑顔を浮かべる。
「へぇ…こういうの着けてたのか、可愛いな」
そう言って、ブラの上部に付いているレースの形を数回なぞり、布に隠れている突起をつつく。
「んっ…」
成るべく意識をしない様にと、思考を散らしていたのに、相手は、すぐ事には及ぼうとせず、一々焦らすかの態度を取る。そのせいで、嫌でも意識は、これからの行為へと向いていった。
長曾我部は、元就の胸元から手を離すと、徐に己もワイシャツを脱ぎだした。その下から、均整の取れた逞しい体躯が現れる。
「……」
免疫が無い訳ではない。兄がいるし、自身も曽ては男であった。
それなのに、その見た目に、何故か異性というものを十二分に感じてしまい、怖いもの見たさなのか、元就は目を逸らせずにいた。
「…何?触りてぇの?」
「…え?」
凝視されている事に気付き、長曾我部は口角を上げ、からかう様な口を利く。そして、元就の手を取り、自分の胸に当てた。
「……!」
その肌に触れた途端、幾許の寒気と、今からこの男と肌を合わせるのかという思いが、更に心の中で肥大していく。
もう、思考を散らす事は叶わず、それしか考えられない。すると、急に、何とも言えない緊張感が、元就を支配し始めた。
身体が徐々に、硬直していく。
昔も今も、男に抱かれた経験など無い自分にとっては、完全に、未知の領域だ。
知らず、息も詰まり、微かに身体が震え出す。
そんな風に怯えている元就へ向かって、長曾我部は、もう片方の手を、ゆっくりと伸ばしてきた。
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