十二
その音を聞いて、元就の混濁していた思考が一瞬冴える。そして、ふと巡らせた視線の先に、投げ捨てた鍵が見えた。
この資料室は、外側からしか鍵は掛けられない。つまり今、この部屋は、誰でも入って来られる状態となっている訳だ。
下校時刻の鐘が鳴ったのに、鍵を返しに戻らなければ、担任が捜しに来る可能性が有る。
“人が来るかも知れない”
そう考えると、元就の頭から血の気が引いた。
この状況を誰かに見られでもしたら、羞恥と言う言葉も敵わぬ程の羞恥である。
元就は、力が入らない手を何とか持ち上げ、長曾我部の手をブラウスの上から掴み引き剥がそうとした。
急な抵抗に、一瞬長曾我部の手が止まる。しかし、無理矢理止めさせるには、力が足らず、更にまさぐられる羽目となった。
「何?もっと弄られてーの?」
今度は、指先で小刻みに乳首を弾きだす。
「違っ…やぁっ…!」
そして、勃った乳首を押し込み指先を回し弄られる。
「だ…誰か…来たら…」
「ん?あぁ、別に良いじゃね?誰に見られても」
何を言っているんだと、元就が肩越しに睨んだ瞬間、長曾我部はしれっとした顔で、又あの台詞を口にした。
「だって、俺ら付き合ってんだし」
今日、嫌と言う程聞かされた言葉だ。
「まあ、ちょっとイタい奴らだな、って思われるだろうけど」
元就にとっては、“ちょっと”所ではない。
「ふざけ…」
「ふざけてねぇよ」
先程まで、どこか嘲りを含んでいた態度とは打って変わり、長曾我部の声が至極冷徹なものになった。
「お前もな、お前の言う事信じてくれるダチを一人でも作ってりゃ良かったんだ」
乳房を揉み上げ、元就の頭部を、己の顔に近付ける。
「味方が居ないって辛ぇだろ?なあ?」
耳朶を甘噛みしながら吐く言葉は、その行為とは裏腹に、辛辣なものだ。
「…離…せ」
はっきりと見える悪意に、元就は嫌悪感を募らせ、長曾我部の腕から逃れようと身を捩った。
「良いじゃん、このままヤろうぜ」
しかし、その抵抗をものともせず、元就の耳孔に舌を這わせ、ねっとりとした口調で迫ってくる。そして、片手が離れ、太股を伝い、スカートの中へと移動して、ショーツの上から秘部を軽く撫でられた。
「あっ…!」
「充分に準備は出来てるみたいだしな」
長曾我部の指先が、無遠慮にショーツの中へ入り、女陰(ほと)に第二関節まで射し込んだ。
「やっ…!」
抜き出した指に付いた、粘り気のある白い体液を、元就の目の前で弄ぶ。
「はっ、胸触っただけでこれかよ。こりゃ簡単に入りそうだな」
恥ずかしさで俯いた元就の臀部に、何かが当たっている。その何かが、熱(いき)り立っている長曾我部のモノと気付くのに、そう時間は掛からなかった。
「それとも、俺ん家に場所変えるか?」
その感触によって、犯されるという事が、一層、現実味を帯び、恐れで固まっている元就を追い詰めるかの様に、長曾我部は言葉を投げる。
「俺はここでも構わねぇけど?…どうする?」
ズルい聞き方だ。そう思い、床に落ちている鍵に視線を移す。
「…………」
他に選択肢など有りはしない。
「……行く」
消え去りそうな声でそう答えると、漸く長曾我部の腕の中から解放された。
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