裏黒 | ナノ



“真意が何であれ、極力関わらなければ良い”

元就が出した結論はこれである。

その後、呼び止める長曾我部を無視して、元就はさっさと教室へ戻った。

そして、今日最後の授業が担任の教科であった為、終了と共にホームルームへと進み、何時もより帰宅時間が早まったのだが、元就は今、特別教室棟へと続く渡り廊下を歩いている。

担任から、授業で使った教材用の地図を、特別教室棟にある資料室に戻しておいてくれと、鍵と一緒に渡されたからだ。

歩みを進める度、元就の眉間に皺が寄っていく。

『腹立たしい』

そう思うのも、こうなった理由が、担任が長曾我部を捜しに行く、と云うものであったせいだ。

最初は、元就に居場所を聞いてきた。何故自分に聞くのかと、少し向か腹が立ったが、知らない旨を伝えると、“じゃあ、これを頼む”と、押し付けられて、この状況である。

結局あの後、長曾我部は追って来る事もなく、更には、午後の授業にも出て来なかった。

そこで元就は、ふと思う。

『そう言えば、たまに授業中、姿が見えなかった様な気がする』

だが、一々意識して見ていないので、どの授業かまでは覚えていない。

“そんな事よりも…”と、元就は思考を切り替える。

『このまま会わなければ良いのだが…』

そう考えると、自然と歩く速度が上がっていった。

特別教室棟に着き、目的の部屋の扉へ鍵を差し込む。

教室棟と違い、こちらは授業時間外だと本当に静かだ。

鍵が外れる音が、嫌に大きく感じる。

ドアノブを回し、一歩踏み出したその時…。

「!?」

背中に強い衝撃を感じ、身体が宙に浮いた。そして、前のめりに倒れ込む。

咄嗟に持っていた地図と、鍵を投げ捨てて、両手を床に突き、頭を打つ事は免れた。

「あぁ、悪ぃ悪ぃ。そこまで軽いとは思わなかったぜ」

衝撃に続いて、頭上から降ってきた声は、今一番聞きたくない物であった。

「長曾我部…」

元就は、相手の名を呼び、肩越しに見上げる。その顔は、悪怯れた様子は無く、逆に、したり顔にも見て取れた。

なににしろ、良い予感はしない。

閉まり掛けている扉へ駆け寄る為に、急いで立ち上がろうとしたその瞬間、膝に痛みが走る。

「いっ…!」

思わず蹲り、そこを掌で押さえると、少しの湿り気を感じた。

「ん?怪我でもしたか?」

そう言って、長曾我部が屈んだ時。

「あ…」

無情にも、扉の閉まる音が聞こえた。

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