裏黒 | ナノ



制服に着替え、朝食を摂るために二階の自室からキッチンへと移動する。

比較的広い家だが、元就以外、誰も居なかった。

今生の両親とは既に他界していて、家族といえば歳の離れた兄が一人いるだけだ。

その兄も海外で働いていて、ここ数年、姿を見てはいない。学校等で保護者の許可がいる事柄に関してのみ、電話で話す事が精々年に一度あるか無いかという関係である。

今生での元就は、家族との繋がりが稀薄であった。

『…一人でも健在な分だけマシ、か』

朝食を食べ終え身仕度を整えると、“行ってきます”と、誰もいない空間に挨拶をして、何時もの通い慣れた通学路へと出て行った。

ただ違うのは、今日から新しい一年が始まるという事だけである。





◇◆◇◆◇◆◇◆





教室に着き、ザッと周りを見渡すが、特に見知った顔もない。

否、何人かは元クラスメイトであった様にも思うが、余り記憶に無かった。

と、いうのも、元就は元々人付き合いが苦手な質で、自然と他人から距離を置き、友と呼べる人間を今まで作らなかったからである。

一つ溜め息を吐いて黒板に貼り出されている座席表を確認し、自分の席へと腰を下ろした。

そして徐に顔を上げると、一人の男子生徒が眼に映り、一瞬息を飲む。

月の光をそのまま受けた様な、柔らかな銀色の髪を持った偉丈夫。

―――今朝、夢の中で見た男がそこに居た。

クラスメイトと親しそうに談笑をしている所を見ると、少なくとも一年前から在校していた様だ。

現に目の前に居る女生徒達が、男の名前を言い同じクラスになれた事を喜んでいる。

『馬鹿な…あんなに目立つ容貌の者に今まで気付かぬとは』

だが、元就には今生では初めて見る顔であった。

「長曾我部、元親…」

元就は、男の名をポツリと呟いた。

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