二
“身内の言う事は聞き入れない”と云う事で、毛利に頼って来たらしいが…。
『大体、親しくもないのにどうしろと?』
今日で、此処に来て四日目になるが、大した会話も無いまま、淡々と一日が過ぎて行く。
その間、松寿丸は色々と外界の事について話したが、弥三郎は生返事をするだけで真剣に聞こうとはしない。
「…つのかくしきばをかくしてやみにとけ…」
静かな庵の中には、弥三郎の歌声と小豆の音が流れている。
『この短期間で懇意になれと云う事か』
頼まれたからには、やり遂げなければならない。
「…すくってはんでみにとかす」
悩んでいる自分を尻目に唄っている弥三郎に苛立ちを感じ始め、宙を舞っている御手玉の一つを掴み取った。
「松寿丸さま?」
弥三郎は、然程驚きもせず見上げてくる。
「…何時までこうしているつもりだ」
何に対してかの問い掛けか瞬時に理解したらしく、弥三郎は少し溜めてから笑顔で答えた。
「…見逃されているうちは」
弥三郎の率直な物言いに、松寿丸は只呆れた。武家の、それも領主の息子である者が。
「その様な甘えた事を」
松寿丸の声が自然と震えてくる。巫山戯ているとしか言い様がない。
「松寿丸さまの所では知りませんが、家ではソレが許されるのですよ」
せせら笑うかの様に、弥三郎がそう言葉を紡ぐ。
「男の身を持って産まれていながら何を…!」
「松寿丸さま。他家の事でしょう?何故貴方がそう躍起になるのですか?放って措けば宜しいのに」
松寿丸の言葉を遮って、弥三郎は無表情に言い放った。
確かに松寿丸には関係の無い事だ、だが…。
「男のくせに…」
「随分と…」
弥三郎が徐に立ち上がる。
「“男”と云う事に拘るのですね…」
そして、薄く笑いながら松寿丸の手を取り、その手に握られていた御手玉を取り上げた。
「ねぇ?松寿丸さま」
取った松寿丸の手を、弥三郎は己の唇へと持っていき、そして、軽く口付ける。
「…離せ」
「鍛えられていても、柔らかいものですね」
弥三郎の手は、その外見には似合わず、骨張っていた。その指が松寿丸の手の感触を楽しんでいる。
「離せ!」
松寿丸は振り払おうとするが、弥三郎の手はびくともしない。
「何故、男の振りなどしているのですか?」
「!?」
松寿丸が何かを言い返す前に、弥三郎は手を引っ張り空いている手の方で松寿丸の腰を抱く。
結果、松寿丸は抱き竦められた形になった。
「男にしては、華奢だと思ってました。ほら、腰もこんなに細いし…」
弥三郎に耳元で囁かれ、軽く身震いをする。そして、腰を強く抱かれた。
「わ、我に触れるな!」
ここで初めて、松寿丸は恐怖を感じた。この、噎せ返る様な花の匂いを纏う目の前の“男”に。
「質問に答えて下さいませんか?松寿丸さま」
“じゃあ、仕方ないですね”と、弥三郎が言ったと同時に、松寿丸は畳の上に押し倒された。
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