二
「あークソ、やっぱ何処にもねーな」
数日前のあの日、元親は探し物をしていた。買ったばかりのカシミアのマフラーである。
物に対して、無頓着と言う程でもないが、はっきり言って、落としたのか、何処かに置き忘れたのかよく覚えていない。
「ちっ、高かったのによ」
と、軽く悪態をつく。
取り敢えず思い付く場所は全部探したので、今日は諦めて又明日にでもと、自分の教室へ向かった。
テスト期間中のせいか、誰ともすれ違わない。廊下には自分の足音のみが響いている。まだ陽が高いというのに、やけに静かで不気味だな、と、元親がそう思った時…。
「…ん?」
微かだが、物音がした。
「何だ?」
不審に思い、元親は足を忍ばせてゆっくりと音のする方へと進んで行った。
それは、近付くに連れて段々とはっきりしてくる。ギリ…ギリ、と、椅子が床に擦れる音。そして、押し殺した様な息遣い。
少しだけ開いた引き戸から覗くと、一人の女生徒が机に突っ伏しているのが見える。
『誰か倒れてんのか!?』
と、元親は初めはそう思った。
しかし、どうも様子がおかしい…。
『胸を押さえている?いや…』
自分で弄っている。それにもう片方の手は、というと…。
『おいおい、マジかよ…』
スカートの中に入っていた。段々と水音も聞こえ出す。
それが、どういった行為なのか、分からない元親ではない。
『こんなとこで、アイツが?』
“アイツ”とは、まさに今、淫らな行為に耽っている元就の事である。
品行方正の優等生。美人だが、何時も他人を見下した感がある、余り元親にとっては良い印象が無い同級生だ。
『アイツがねぇ』
元親は勢いよく扉を開け放つ。
音に驚いたのか元就が振り向き、目が合った。
「よう、毛利。随分と楽しそうな事してるな?」
開けた時とは対照的に、元親はゆっくりと丁寧に扉を閉めた。
「長、曾我部…」
己の恥部を見られたというのに、元就は慌てる様子もなく只、何時もの見下した様に冷たい眼差しを見せるだけだった。
勿論、元親としては面白くない。
『ま、確かにコレを言い触らしたところで、誰も信じないだろうけどな』
日頃の行いの差だろうか、下手をすれば元親が非難を浴びてしまう事柄だ。
『でも、まあ、な…』
「?何だ、貴様」
いきなり手を取られた元就が不満気に睨んでくる。
つん、と、ほのかに匂う甘い香りが、元親の鼻腔を掠めた。先程まで元就が自分の敏感な部分を触っていた手だ。
「小せえ手だな、こんなんじゃ奥まで届かないだろ?」
ペロリと、元親はその指先を舐める。
「手伝ってやるよ」
厭らしい笑みを見せる元親に、元就は一瞬だけ眉を顰めただけであった。
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