裏黒 | ナノ



時が過ぎ、高校生になってから二回目の春。

『又同じクラスか…。』

掲示板に張り出されたクラス表を見ながら、元就は軽く溜め息を吐く。

相変わらず2人とは疎遠だったが、色々な噂が耳に入っていた。

主に色恋の事だが…。

2人が、女にモテるのは知っていた。中学生の頃は自重していたのか、高校生になった途端、浮き名を欲しいままにしている。

クラスの女共が周りに聞かせたいのか、キャーキャー、はしゃぎながら、

「まーくんって。チョーキス上手いの。」

「チカも上手いよ〜、あたしキスでイカされたの初めて。」

「マジ?S高の娘がH超気持ち良かったって言ってたけど…。」


「え?どっちの事?まーくんはHも上手いよ?」

「チカもだよ。」

「ん〜、両方?」

「え〜!?何それ〜、その娘羨まし過ぎ〜!」

「つーか、そんなにイイなら私も抱かれたいな〜。」

「ゴム持参したら絶対ヤってくれるよ〜。」

「え!?マジ?」

「マジ!マジ!」

「節操無し〜!でも格好良いから許す!」

「アハハあんた何様〜、でもあたしも同意見!」

「私も〜!」

等と、楽しそうに笑いあっている。

『…下品な…。』

彼女達の話の内容もさることながら、話題に上がっている自分の幼馴染みにも軽く軽蔑を覚える。

「ナ〜リちゃん。」

不意に名前を呼ばれて、思考を遮断された。

声の主は、人懐こい笑顔を浮かべながらおいでおいでと手招きしている。

「…前田か。」

教室の出入口から、かなりはみ出している長身の男。

前田慶次。

初めて会っ時と変わらぬ笑顔だ。










慶次と会ったのは去年の秋頃、体育の授業の後、朝食を抜いて来たのが不味かったのか、貧血を起こしてしまい下足ホールで蹲っていた。

「…あれ?どうしたの?大丈夫!?」

そう声を掛けてきたのが、前田慶次だった。

蹲っていた理由を聞かれて、朝食を抜いて来たと言ったら、“駄目だよ、ちゃんと食べて来ないと〜。”と言い、保健室まで運んでくれた。(運ぶ行為が姫抱きだったのが、かなり恥ずかしかったが…。)

それからちょくちょく、気に掛けてくれるようになった。

大体は“ちゃんと御飯食べてる〜?”という些末な事である。

どうやら抱き上げたとき、我の体重が軽すぎたらしい。

そして何故か、(毎日ではないが)昼食に誘われる。

前田の同居している叔父夫婦の奥さんが(まつさんと言うそうだ。)作るお弁当が絶品で、初めは気が引けたのだが、(見ず知らずの我の分迄弁当を作らすのは流石に悪いと思って)いつの間にか、このたまのランチが楽しみになっていた。

慶次は恋の話が好きなようで、学年、クラス問わず、はては教師に及ぶまで、色々な我の知らない者の恋話をする。

ある時、“人の事より自分の恋はどうなのだ?”と問うたら、一瞬だがとても寂しそうな顔をした。

辛い恋でもしているのだろうか…?

そんな事があってから、もう慶次自身の恋の話は聞かない事にした。

本命の相手がいる。

それだけの理由だが、慶次とは気楽に付き合えた。

やはり、一応は男女だから変に意識してしまう時もあったし…。









「今日天気良いから、屋上で食べよっか?」


「うむ、良案だ。」

そうやって、仲良く教室を出て行く2人を冷たく見送る2つの目線があった。





元就がどう思おうと、その姿は端から見たら仲の良い恋人同士にしか見えなかった。

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