二
時が過ぎ、高校生になってから二回目の春。
『又同じクラスか…。』
掲示板に張り出されたクラス表を見ながら、元就は軽く溜め息を吐く。
相変わらず2人とは疎遠だったが、色々な噂が耳に入っていた。
主に色恋の事だが…。
2人が、女にモテるのは知っていた。中学生の頃は自重していたのか、高校生になった途端、浮き名を欲しいままにしている。
クラスの女共が周りに聞かせたいのか、キャーキャー、はしゃぎながら、
「まーくんって。チョーキス上手いの。」
「チカも上手いよ〜、あたしキスでイカされたの初めて。」
「マジ?S高の娘がH超気持ち良かったって言ってたけど…。」
「え?どっちの事?まーくんはHも上手いよ?」
「チカもだよ。」
「ん〜、両方?」
「え〜!?何それ〜、その娘羨まし過ぎ〜!」
「つーか、そんなにイイなら私も抱かれたいな〜。」
「ゴム持参したら絶対ヤってくれるよ〜。」
「え!?マジ?」
「マジ!マジ!」
「節操無し〜!でも格好良いから許す!」
「アハハあんた何様〜、でもあたしも同意見!」
「私も〜!」
等と、楽しそうに笑いあっている。
『…下品な…。』
彼女達の話の内容もさることながら、話題に上がっている自分の幼馴染みにも軽く軽蔑を覚える。
「ナ〜リちゃん。」
不意に名前を呼ばれて、思考を遮断された。
声の主は、人懐こい笑顔を浮かべながらおいでおいでと手招きしている。
「…前田か。」
教室の出入口から、かなりはみ出している長身の男。
前田慶次。
初めて会っ時と変わらぬ笑顔だ。
慶次と会ったのは去年の秋頃、体育の授業の後、朝食を抜いて来たのが不味かったのか、貧血を起こしてしまい下足ホールで蹲っていた。
「…あれ?どうしたの?大丈夫!?」
そう声を掛けてきたのが、前田慶次だった。
蹲っていた理由を聞かれて、朝食を抜いて来たと言ったら、“駄目だよ、ちゃんと食べて来ないと〜。”と言い、保健室まで運んでくれた。(運ぶ行為が姫抱きだったのが、かなり恥ずかしかったが…。)
それからちょくちょく、気に掛けてくれるようになった。
大体は“ちゃんと御飯食べてる〜?”という些末な事である。
どうやら抱き上げたとき、我の体重が軽すぎたらしい。
そして何故か、(毎日ではないが)昼食に誘われる。
前田の同居している叔父夫婦の奥さんが(まつさんと言うそうだ。)作るお弁当が絶品で、初めは気が引けたのだが、(見ず知らずの我の分迄弁当を作らすのは流石に悪いと思って)いつの間にか、このたまのランチが楽しみになっていた。
慶次は恋の話が好きなようで、学年、クラス問わず、はては教師に及ぶまで、色々な我の知らない者の恋話をする。
ある時、“人の事より自分の恋はどうなのだ?”と問うたら、一瞬だがとても寂しそうな顔をした。
辛い恋でもしているのだろうか…?
そんな事があってから、もう慶次自身の恋の話は聞かない事にした。
本命の相手がいる。
それだけの理由だが、慶次とは気楽に付き合えた。
やはり、一応は男女だから変に意識してしまう時もあったし…。
「今日天気良いから、屋上で食べよっか?」
「うむ、良案だ。」
そうやって、仲良く教室を出て行く2人を冷たく見送る2つの目線があった。
元就がどう思おうと、その姿は端から見たら仲の良い恋人同士にしか見えなかった。
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