八
「ずっとな、思い出すまで待ってようとしたんだ…。」
『思い出す?何を?』
「男と付き合ってたのも、言い寄る奴が多くてよ。鬱陶しいけど、断るより特定の誰かと付き合った方が相手すんのソイツだけで済むだろ?」
『そう言えば、一度も彼氏との惚気話を聞いた事が無い。』
「でもよぅ、彼奴等付き合って暫くしたら同じ事言いやがる。」
元親の表情が、憎々し気に歪む。
「“友達に毛利さんの事紹介してくれないか?”ってな。」
そして言葉を吐き捨てる。
「ふざけるなってな。元就は俺のモンだ。」
『…!自分の事“俺”なんて言った事無いのに…!』
「だから、それを言われる毎に別れてたんだけど…。」
元親はまだ喋り続けているが、元就は其れどころではない。
『誰だこれは…。』
目の前に居るのは確かに自分の幼馴染みだ。
だが…。
「…でよ、お前に悪い虫が付かない様に取り敢えず三人選んで、ちいと痛め付けてやったんだけど…。まあ、最後の奴はやり過ぎたかもな。」
『元親は、こんな事笑いながら話す様な人間じゃない…。』
「ちょっと脅しかけたら、大人しく引いたけどよ。ああ、大丈夫だぜ、俺ってバレない様に脅したから。」
その時元親が見せた笑顔に耐えられなくなって、元就は咄嗟にドアに駆け寄った。
ガチャ!
「!」
ドアノブが回りきらない。
『鍵…!?』
慌てて鍵を開けようとするが…。
「あの女もな…。」
「!!?」
手を取られ、後ろから抱き締められる。
「お前に手を出すと痛い目合う。って噂広げさせる為に情報流してやったんだけど…。本人に言っちゃあ駄目だよなぁ?」
「うっ…。」
元親の吐息が耳に当たる。
「元就は優しいから気に病んじまうだろ?だから、少し灸を据えてやったんだ。」
階段から落ちた女生徒の事を言っているのだろう。
『…やはり、あれは空耳では無かったのか…。』
「元…ち…!」
振り向くと同時に、唇を奪われた。
独白を聞いている間中、ずっと否定していた事がこの行為で決定的になる。
元親は、自分をそういう対象として見ていたのだ。
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