五
「じゃあ、ごまんと居るじゃねーか。容疑者…。」
対応に困っていると、聞き慣れた声が助け船を出す。
「元親…。」
幼馴染みの登場に、元就は安堵した。
「あんま、つまんねぇ事言ってんなよ。」
「つまんなく無いわよ〜。確かな筋から聞いたんだから。」
元親の言葉にむくれた顔を見せたが、一通り話して気が済んだのか、その女生徒は“じゃあね。”と軽く挨拶をして帰って行った。
「…済まぬな、元親。」
「ん?別に。気にすんな。」
この幼馴染みは、何時も困った時には必ず助けてくれる。そういう所が、元就は好きだった。
「ああ、元就。悪いけど、今日先に帰っててくんねぇ?」
「?何かあるのか?」
ここ最近、連日の様に一緒に帰っていたのに珍しいな。と思って理由を聞いてみると、“ちょっと野暮用がな…。”とだけ言って元親は教室を出て行った。
「野暮用…?」
少し気になりながらも元就は、久し振りに一人で家路に着いた。
翌日。
朝一に元親から“今日は先に学校に行くから。”という携帯メールが届き、元就は何時もより遅めに家を出る。
「あの…。毛利さん。」
そして校門の前まで来ると、見知らぬ男子生徒に呼び止められた。
「何だ?」
元就がその男子生徒の方に向き直ると、声を潜めて
「長曾我部さんって、彼氏と別れたって聞いたんだけど…。本当?」
と、尋ねてきた。
『もう広まっているのか…。』
まだ、一週間も経っていないのに情報が早いものだ。等と、変な感心をする。
「ああ。本当だ。」
別に口止めされている訳でもないので、肯定の意を返す。
すると、その男子生徒はあからさまに嬉しそうな笑顔を見せて
「じゃあ、悪いけど…。これ、渡しておいてくれるかな?」
と可愛らしい絵柄の封筒を元就に渡してきた。
「手紙?」
「いやっ…!メールにしようかと思ってたんだけど、誰もアドレス知らなくて…。そしたら、長曾我部さん携帯持ってないって皆が…。…と、兎に角宜しくね!」
聞いてもいない事を捲し立て、男子生徒は去って行く。
元就は、その男子生徒の姿にではなく、言葉の方に唖然とした。
「携帯を持っていない…?皆が言ってた?」
でも、自分は毎日元親とメールのやり取りをしている。
「何故…嘘を吐く?」
自分より需要がありそうなのに…。
疑問に思いながら、元就は教室に向かった。
校門に着いてからの一部始終を見ていた幼馴染みには、最後まで気付かずに…。
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