四
元就の母親が作った朝食を二人で摂り、登校すると何やら騒がしい。何かあったのか?と、そのまま進んで行くと、下足ホールに人だかりが出来ていた。
「どうかしたのか?」
元親が、傍に居たクラスメートに聞く。
「ああ、チカちゃん。あのね、何か二年?の男子が下足箱に入ってたプレゼントを開けたらね、爆発したって…。」
『爆発?』
隣で聞いていた元就は、“まさか、そんな物騒な事…。”と思ったが、人だかりの隙間から少量ではない血溜まりが見えて、息を飲んだ。
「怖えーなぁ…。何か恨みでも買ってたんじゃねぇの?」
「うーん。原因は分かんないけど…。でも、前にも似た様な事あったよね…。」
「ほら!お前達!いいから教室に行け!」
元親とクラスメートの会話は、教師の怒号により打ち切られる。
「ハイハイっと。元就、行こうぜ。」
そう言って、元就の手を取り教室へ向かう。
「あ、ああ…。」
状況の凄惨さと、元親ののんびりとした声音に若干の違和感を感じながら、元就は手を引かれるまま付いて行った。
怪我をした男子生徒は、出血の割には大した事もなく、その日の午後には退院出来たらしい。
結局その日は、授業は無くなり、午前中に帰された。
警察も来て捜査をしたが、後日、その男子生徒は被害届を取り下げたという。
“自分が悪かったから…。”と言って…。
数日後。
「ねぇ、毛利さん。知ってる?」
ホームルームも終わって、帰り支度をしている時に、不意にクラスメートの女子に話し掛けられた。
「…何を?」
噂好きで有名な女子だ。
元就が反応すると、意味あり気な含み笑いを見せる。
「この間、怪我した男子居るでしょう?でね、その少し前に似た様な事あったよね。確か下足箱に入ってたプレゼントのクッキーに毒物が入ってたってやつ。」
その事なら元就も知っている。毒物は少量だった為、大事には至らなかったという事も。
「でね、もう一つ。プレゼント関係じゃないから皆見落としがちなんだけど、三ヶ月位前、五組の男子の鞄の取っ手に刃物仕込まれた事あったじゃない…。」
そういえばそういう事もあったな、と元就は思った。あれも手を切った程度で大した事は無かった筈…。
だが…。
「それがどうした?何かあるのか?」
先程から聞いているが、自分には全く関係無い出来事ばかりに少々苛つく。
「まあまあ、聞いてよ。でね、全く関係無い感じでしょ?」
女生徒の笑いが深くなった。
「でもね、この間の彼で一つだけ共通点があるのが分かったの…。」
「?…共通点?」
「その共通点っていうのがね…。」
女生徒は、勿体振る様に間を取る。
「毛利さんのに片想いしている男子ばっかだったの。」
まるで鬼の首を取ったかの様に誇らし気に言われたが、正直元就にはいい迷惑だった。
「…だから、なんなのだ?」
「もう!だから犯人は毛利さんの事が好きな奴じゃ無いかって事!」
ノリの悪い元就に膨れながら、女生徒は自分の憶測を話す。
「……。」
それこそ迷惑な話だ。自分の知らない所で、知らない誰かが勝手に自分の事を好きだと言っている男子を襲っている…。
元就はその女生徒の言う事が、事実かどうかも怪しいのに、と迂闊な返しは出来なかった。
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