五
火照った身体に、水の冷たさが心地好い。
行為が終わり、その後こうして元親が濡れたタオルで元就の身体を拭いている。
「…貴様、自分が何をしたのか分かっておるのか?」
一点を見つめて、元就がぽつりと呟く。
「ん?ごうかん?」
「…!クズが…!」
悪びれもせず、忌まわしい語句を言い放つ元親に、元就は遠慮なく軽蔑の眼差しを向けた。
「言っとくけどな…。」
その視線を、元親は嘲笑で受け止め、そして言葉を繋げる。
「逃げれる隙は、結構あったんだぜ?」
「!そ、そんな事っ…!」
「“無い”とは言わせないぜ?脱がせたのはパンツだけだ、服は全部着せたままだったろう?つーか、本気で嫌なら形振(ナリフ)り構わず逃げる筈だ、足も竦んでなかったし、腰も抜けてなかったし?なあ?」
元就の反論を許さず、元親は言葉を被せた。
「そ、それは…。」
言い淀む元就に元親は顔を近づけ、
「興味あったんだろ?こういう事によう…?」
そう言って、唇を重ねて無理矢理舌を絡める。
「んっ…!むぅ…っ…。」
角度を変え、元親は更に元就の舌を貪る様に舐めた。
「ふっ…ぁ…。」
暫くすると、元就の奥で縮こまっていた舌先が、元親の舌におずおずと応え擦り合わせてくる。
「……、はっ!」
その反応に元親は思わず笑みをこぼす。
「もっと気持ち良くなりたいか?」
元就の目に、色情が宿っているのを見て取り、元親は囁く。
「……。」
それが元就の耳に、殊更甘く響いた。
「hey.チカ。お前、昨日の雑誌見たか?」
明くる日の放課後、悪友が、意地の悪い笑顔を見せて、元親に話し掛けてくる。
「おう。」
多分、彼にとってはちょっとした悪戯心だったのかも知れない。
「似てたろう?お前の大好きな風紀委員に。」
そう、悪友が“見ろ”と言ったページには、元就に似た女が載っていた。
「向こうの方が、胸デカかったけどな。」
「ha.ha.そりゃ、毛利に失礼だ。」
「でも、形はアイツの方が良かったな。」
「…?why?どうして形なんか知ってんだ?」
悪友の疑問に、元親は笑ってはぐらかす。
「何だよ、気になるじゃ…。ん?」
追求を妨げるかの様なタイミングで、元親の携帯が軽やかな旋律を奏でた。
「?お前、そんな着信音使ってたっけ?」
初めて聞く、元親の好みにしては珍しい音楽に、悪友の疑問がそちらに移る。
「ああ、これはな…、特別なんだ。」
「especially?」
「お前には感謝してるぜ、政宗。」
「…why?」
唐突に礼を述べられたが、政宗には理由が分からない。
再び追求されたが、元親は携帯のディスプレイを見て、“用事出来たから、帰るわ。”と、意気揚々と去って行った。
-終-
(初出:'09.10.22 )
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