裏黒 | ナノ



火照った身体に、水の冷たさが心地好い。

行為が終わり、その後こうして元親が濡れたタオルで元就の身体を拭いている。

「…貴様、自分が何をしたのか分かっておるのか?」

一点を見つめて、元就がぽつりと呟く。

「ん?ごうかん?」

「…!クズが…!」

悪びれもせず、忌まわしい語句を言い放つ元親に、元就は遠慮なく軽蔑の眼差しを向けた。

「言っとくけどな…。」

その視線を、元親は嘲笑で受け止め、そして言葉を繋げる。

「逃げれる隙は、結構あったんだぜ?」

「!そ、そんな事っ…!」

「“無い”とは言わせないぜ?脱がせたのはパンツだけだ、服は全部着せたままだったろう?つーか、本気で嫌なら形振(ナリフ)り構わず逃げる筈だ、足も竦んでなかったし、腰も抜けてなかったし?なあ?」

元就の反論を許さず、元親は言葉を被せた。

「そ、それは…。」

言い淀む元就に元親は顔を近づけ、

「興味あったんだろ?こういう事によう…?」

そう言って、唇を重ねて無理矢理舌を絡める。

「んっ…!むぅ…っ…。」

角度を変え、元親は更に元就の舌を貪る様に舐めた。

「ふっ…ぁ…。」

暫くすると、元就の奥で縮こまっていた舌先が、元親の舌におずおずと応え擦り合わせてくる。

「……、はっ!」

その反応に元親は思わず笑みをこぼす。

「もっと気持ち良くなりたいか?」

元就の目に、色情が宿っているのを見て取り、元親は囁く。

「……。」

それが元就の耳に、殊更甘く響いた。








「hey.チカ。お前、昨日の雑誌見たか?」

明くる日の放課後、悪友が、意地の悪い笑顔を見せて、元親に話し掛けてくる。

「おう。」

多分、彼にとってはちょっとした悪戯心だったのかも知れない。

「似てたろう?お前の大好きな風紀委員に。」

そう、悪友が“見ろ”と言ったページには、元就に似た女が載っていた。

「向こうの方が、胸デカかったけどな。」

「ha.ha.そりゃ、毛利に失礼だ。」

「でも、形はアイツの方が良かったな。」

「…?why?どうして形なんか知ってんだ?」

悪友の疑問に、元親は笑ってはぐらかす。

「何だよ、気になるじゃ…。ん?」

追求を妨げるかの様なタイミングで、元親の携帯が軽やかな旋律を奏でた。


「?お前、そんな着信音使ってたっけ?」

初めて聞く、元親の好みにしては珍しい音楽に、悪友の疑問がそちらに移る。

「ああ、これはな…、特別なんだ。」

「especially?」

「お前には感謝してるぜ、政宗。」

「…why?」

唐突に礼を述べられたが、政宗には理由が分からない。

再び追求されたが、元親は携帯のディスプレイを見て、“用事出来たから、帰るわ。”と、意気揚々と去って行った。

-終-

(初出:'09.10.22 )

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