note



2014/03/15



R18注意




ただいまぁ、なんて可笑しな台詞を踏み潰して、借りたばかりのアパートのドアノブを捻る。
部屋を出た頃は明るかったのに、もう日が沈んでしまった。
明かりをつけずにそのまま、部屋の片隅で蹲る身体の前にしゃがみ込む。
目の前の彼は僅かな振動に気付いたのか、後ろで縛られた両手をぎりっと軋ませた。
顔が見えないのはつまらないので髪を掴んで上げさせれば、疲弊しきった瞳とご対面だ。
「気分は?」
「……さい、あ、く」
やっとのことで吐き出したであろう台詞は細く弱々しい。
「はは、そうだろうな。ははは!」
つい素直に笑えば精一杯の非難を苛立ちを嫌悪をその目に宿して俺を捉える。
けれどその中にある焦燥も快感も、隠し切れてない。
「ふ、んっ、あ、は、やく、抜け、よ……や、あ」
「はあ?いいじゃんこのまんまで。あんたもこんなに悦んでるのに」
幾度となく性を放ったであろう芯に触れれば、ひぅ、と甲高い声が漏れた。
「女みてぇ」
そう呟くと彼ははっとした顔をして、それから掠れた声で叫んだ。
「ふっざけんな!はな、離せよ!やめ、ろ!」
「もう何度目だと思ってんの?懲りないなアンタも」
「黙れ!も、やだ、こんな……」
ぎゃんぎゃんと煩い口も、中に指を突き入れれば途端に甘い色を出す。
「ぅ、や、んぅ!やだ、ぁ」
「このアパートだってアンタの為に借りたんだぜ?」
「ひっ、ゃ、ヤダ、あ、っ!」
探り当てたそれを弱いところに押し付ければ、びくびくと震えて彼は鳴いた。
「とって、そ、れ、ゃあ、あ」
すっかり彼の中に馴染んでいる小さな玩具は、俺が部屋を出て行く前に彼にプレゼントしたものだ。
「思った以上に気持ち良さそうじゃねぇか。もうすっかり調教済みって感じだな」
にたりの嗤うと返ってきたのは罵倒じゃなく今度は涙だった。
「うっ、く……ひ、ふ、ぁ」
「何、気持ち良すぎた?」
「はな、せ。かえせ……やだ」
泣いて、子供のように愚図って唯をこねる仕草はきっと普段の彼を知る人間なら驚く光景だろう。
益々笑みは深くなる。
「あー、ヤバ。もう挿れるわ」
「え?、ぁ、まっ、やぁああ!」
無遠慮に突き刺すと彼の身体が弧を描く。
逃げようとする腰を抑えて中にある玩具ごとグチャグチャと掻き混ぜる。
「あ、ぁああ、っひ、ああ」
壊れたように嬌声を繰り返す姿は滑稽でしかないのに、何故かこの男の姿に限りに俺に熱を齎す。
「んぁ、あ、もう、ひっーー!」
彼の限界は近かったらしく、すぐに薄い白濁を吐き出した。
そのまま意識を飛ばしそうだったので律動を早めると細長い目を見開いた。
「ひ、ダメ、まだイッて、っああ」
「勝手にイッたんだろ?俺も満足させろよちゃんと」
そのまま彼を無視してガラクタのような身体を散々弄び、彼のとは違う濃いそれを注ぎ込むとひくん、と四肢を震えさせた。
「ぁ、ん……は、」
「なぁ、」
余韻に浸る彼に飛び切り優しい声で問い掛ける。
「名前、呼べるだろ?」
何回も行為の度に刷り込ませたそれを唇をなぞって催促する。
「由孝」
「……ショウ、ゴ」
何とか音になったそれが零れていくのを見て、なんともいえない熱情が、また身体を支配する。
くつくつと堪えきれない笑いを漏らしながら首筋に口付けたらびくん、と彼の肩が跳ねた。
怯えるように此方を見つめる瞳が、赤く染まった目尻が、すべて欲情的だ。
すっかり濡れたシーツを代える気も、腕を縛るネクタイもまだ解いてやる気もない。
まだ足りない。
心臓も胃も肺も、全部俺で満たさなくては。
俺以外の名を忘れてしまえ。
一欠片も誰かに渡しはしない。
やっと奪ったのだから。
奴らも思い知ればいい。
酷く濡れたこの瞳に、もう青や黄色が映り込む隙間なんてひとつもないのだと。
そう華奢な身体に覚えさせるようにもう一度自身の昂ぶりを押し込んだ。
悲鳴は、もう聞こえなかった。

蹂躙すべき翠玉
(壊したら、もっと煌くだろうか)



第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -