女体化注意
自分で選んだことに、後悔はしない主義だ。
お化粧もお洒落も、あたしには無縁だ。
宝石みたいなアイシャドウも、つり目を隠せるアイラインもマスカラも、桃色が香るチークも、練習の汗に溶けてしまう。
フリルのスカートも高いヒールも大きなリボンも、バスケを選んだ私にとっては邪魔でしかない。
けど、それで良かった。
そんなものじゃ手に入れられないものを、あたしは知っている。
真ちゃんの相方という、最高の場所を。
素っぴんで大声上げて笑って、張り付く髪をカチューシャで掻き上げて、皺くちゃのシャツを来て隣りに並ぶあたしを、真ちゃんはどう思ってるのだろう。
きっと真ちゃんの理想は、あたしを着飾れないそのどれもが似合う女の子だろう。
けれど、そんな子には真ちゃんの考えることなんて絶対に分からないんだろうな。
同じコートにいる快感なんて、理解できないだろうな。
真ちゃんの隣りで試合する幸せを、知らないんだろうな。
その唯一になれるなら、私は女子高生の自分を殺しても苦しくなんてなかった。
あたしが欲しいのは貴方の隣りだって、そう笑って言えるの。
だからお願い、それを否定しないで。
真ちゃんの相方はあたしだって、そう言ってよ。
頭をぐるぐると巡る思考は、何ひとつ言葉になってくれない。
体育館へと続く扉の向こう、くすくすと、心地良い笑い声が聞こえる。
長い髪を靡かせて、長い睫毛を瞬かせて、頬を桃色に染める、私はないすべてを持った女の子。
短いスカートをひらりとひるがえし駆け寄る先には、彼が居た。
まるで最初から、彼の隣りはは彼女のものだったかのように、その光景は馴染んでいる。
キラキラと日差しを反射する床が眩しくて、何も見れなくて、しゃがみ込んだままあたしは動けない。
誰なのとか、どうしてとか、そんな言葉すら浮かばない。
ねえ、あたしって真ちゃんの何だったのかな。
彼が今、あたしをどう思ってるのか知りたくて堪らない。
今まで疑ったことなんて無かった。
自分は彼の相方だと、パートナーだと、胸を張って言えてた。
彼のシュートを一番サポートできるのはあたしだ。
今だって、そう思ってるの。
けど、それはバスケをしているときだけの話だ。
勘違いしてたの。
日常の中でも彼の隣りに居たなんて、疑わなかった。
けどあたしは彼の背中を追って、縋りつこうとしていただけだ。
その場所を掴むのに必死で、彼が誰に隣りに居て欲しいと思っているのか、考えたこともなかった。
あたしって随分と傲慢だったんだな。
そう思って笑おうとしたら、涙が出た。
ねぇ、真ちゃん。
あたしには可愛さとか可憐さとか、そんなものは何ひとつなかったけど、あたしは真ちゃんの相方だったよね。
バスケをしてる時は、これからも相方でいいよね。
もう縋りつこうとしないから、背中を見守っててもいいよね。
ねぇ、後悔したくないんだ。
なんでもいい、本当を伝えて欲しいの。
体育館の向こうに声にならない声で、私は問いかけ続けた。
お願い、お願い応えてよ。
その口で伝えてくれなきゃ、動けないよ。
こっちを向いて、話してよ、ねえ。
それすらできないのなら、せめて、
呼吸の止め方を教えて
(もう、二度と貴方を想わないように)