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2014/03/15



笠森の日記念。




肩に、触れたと思った。
次の瞬間に世界は反転した。
力に引かれるままに後ろに倒れてみれば、見えるのは森山の顔越しの天井で、感じるのは硬い、決して心地の良くない太腿の感触であった。
笠松ぅ、と俺を呼ぶ声は酷く浮つき、蕩けている。
「酔ってるのか」
「んー?飲んでないよ、当たり前じゃん」
上機嫌に俺の髪を弄び鼻歌まで口から溢し出すこいつの意図を上手く汲み取るには、時計が必要不可欠だった。
ちらり、横目でそれを見つけて、彼へと視線を戻す。
映りこんだその瞳は先程とは打って変わってじわりと、熱を放っている。
鼓動を撫でる舌を、掻き消す指の音を、まだかまだかとその睫毛を震わせて訴えてくる。
我侭だと、言えばそれで終わるだろう。
ふぅん、と独りごちて、勢いをつけて起き上がる。
そのまま振り返り、ぱちりと目を瞬かせる彼の柔らかな髪を梳かし、その頬を滑って首へと手を這わせれば、森山は至極満足そうにその細目をさらに薄く細める。
緩々とだらしのない唇を頬張れば、調子に乗るなと肩に爪を立てられた。
構ってやるものか、つうっと腰を撫でればうえっと森山は眉を潜ませた。
「お前本当勝手だな」
「知るかよ、今日くらい好きにさせろ」
「今日だけじゃないさ、今までだってずっとお前は勝手だよ」
溜息を吐くようにもたれ掛かるその首は細く、白い。
何も変わらないままだ。
彼の浮ついた声も、からかうような瞳も、武骨に華奢な手も、変わらない。
くくっ、と笑いを噛み殺して、待とうか、彼の変わらない臭すぎる台詞を。
こほん、とひとつ咳払いをして森山は俺に向き直った。
薄い唇を、ゆっくりと開く。
なぁ笠松、と変わらない声のまま。
「これからも、俺だけにそうしてればいい」
ふやけたその顔をつねれば、もうそれだけでこいつは至極幸せそうに笑うのだ。
変わらない。
変わらずに、こいつは俺を我侭にするのが上手いだけ、それだけの話だ。

君を融かして100年目の夜



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