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2014/03/15



R18注意




「やす、とも」
そう呼ばれた名前は酷く危うげで、床にへたり込むように座って俺を見上げる瞳一杯に不安を押し込めて、新開はただ俺の言葉を待っていた。
俺はその期待を蹴飛ばすように足を組換え、新開を見下ろす。
新開は処刑を待つ罪人のような気持ちなのだろう。ただぎゅっと唇を噛んで、目だけは逸らさぬよう必死に俺に視点を合わせている。
俺の舌がちろちろと唇から覗くたび、新開が大きめのシャツ一枚だけ着ただけの引き締まった身体を縮こまらせるのは堪らなく愉快だった。
「何がそんなにおっかないんだァ?新開よォ……」
ゆったりと首を傾げてそう聞けば、新開はヒッと漏れそうになった悲鳴を飲み込んだ。
思わず喉からククッと笑いが漏れる。
「なぁ新開、ちょっと脱いでくれねぇ?」
「……え?」
言葉をうまく飲み込めなかったらしい新開が信じられないといった顔で俺を見た。
「だーかーらぁー裸になれって言ってんだヨ」
大袈裟にため息つきつつ足先を伸ばしシャツの裾を足の親指で掬ってみせると新開は身体を強張らせた。
「いや、でも……」
「あぁ?新開くんは1人でお洋服脱ぐことも出来ないくらいお子ちゃまなんすかぁー?」
「靖友……」
縋るように伸ばされた手を掴んで、彼の襟元へとその指を添えてやる。
カチリと小さなボタンに爪が当たり、新開は諦めたように震える瞼を閉じた。
新開のマメだらけの長い指がボタンにかかる。
のろのろと怠惰な動きでそれが外されていくのを逃がさぬようにじっと眺める。
最後のひとつを外して新開が息を吐いた。
そして、Yシャツに手をかけようとする腕を、俺は掴んだ。
「っ、靖友?」
驚く声を無視して無理矢理に立たせると、部屋の壁際まで引っ張る。
「靖友、何を」
そこまで言いかけて新開がはっとして口を噤む。
壁にかけてあるそれに気付いたようだ。
俺は新開の後ろに回って肩を撫でた。
「ほら、早くしろよ」
そう急かば新開はじわりと目に涙を見せたが、意を決したようにシャツの前を開き上体を曝け出した。
晒されたそれは、酷い有様であった。
筋肉の乗ったその肌にはくっきりと三日月を描いた歯型と、赤く色づいた痕によって隅々まで埋め尽くされていた。
胸を飾りは腫れてぷっくりと浮き上がり、鍛えられた腹筋には乾いた精液が少量、こびり付いていた。
その光景はすべて目の前のーー姿見に映されている。
すべて、すべて俺がつけたものだ。
しかもつい昨日のことだ。
散々に暴いて好き勝手した。欲望をそのまま叩きつけ、これ以上はと頭を振る新開を押さえ付け離さなかった。
疲れ果てた新開が気を失うように眠りにつき、目が覚めたところをベッドから引き摺り出しリビングの床へと放り投げたのがついさっきだ。
新開は昨夜の情事が色濃く残る自分の身体を見ていられないようで俯いている。
「も、いいだろ……」
そう言って前を隠そうとする手を制して、これからだろ?と半端に引っかかったシャツを床に捨て去る。
「っ、靖友……やめてくれ」
拒否する声を遮るように首の歯型をなぞるように舌を這わす。
「んん、はっ……」
新開が肩を竦めてそっちに気を逸らしているうちに腰から下るように手を這わせ、後孔に中指を突き入れれる。
んぐ、と新開は息を詰めたが、中は案外柔らかく荒北を迎え入れるには充分だった。
「昨日散々解したしすぐ入るだろ」
「あ、やだ、嘘……う、くぅあ!」
抵抗しようとする新開の頭を鏡に押さえつけ、自身の先端を強引に新開の中へと押し入れた。
「は、ぁ、……」
うまく息が吸えないらしい。
新開は浅い呼吸を繰り返す。
それを待たずに腰を振れば今度こそ新開は息を止めた。
「っ、っ、あ、」
ぎゅうっと目を瞑って律動に耐える新開の肩を掴み、上半身を俺の胸元へと引き寄せてぐったりと俯く顔を起き上がらせた。
「ほら、ちゃんと目ェ開けてろヨ」
「や……」
「嫌だじゃねーって」
薄っすらと瞼を開いた新開の頬がぎくりと強張る。
そしてあ、と泣きそうな声を落とした。
鏡に映るのはこんなにもぐちゃぐちゃにされて、いたぶられて、それに興奮している自分だ。ぽたぽたと彼の股から欲が溢れ出ている。直視できるはずもない。
それを食い入るように魅入ってると、鏡越しに新開と目が合った。
途端、新開は顔を真っ赤にしてもう嫌だと溢した。
「やだ、も、キツい……」
「アァ?」
「お願い、靖友」
「何をだヨ」
「靖友、靖友……靖友、やすとも」
「……あーもーウッセ!」
ついに蕩けてしまった新開の身体を床に押し倒す。
力の入らないそれは簡単に転がり、その上に覆い被さっても指一本動かせやしない。
ただ靖友、と俺の名をひとつ、呼んだ。
「ンだヨ、何回も言わなくても聞こえてるッつーの」
「……やっぱり、」
「は?」
「やっぱり顔が見えてると、安心するな」
そう言ってさっきまで泣き腫らしていた目を細めて新開は笑やがった。
呆気に取られて、ついため息が出た。
嗚呼駄目だ、いつもこうなってしまえば、この男のペースだ。
あの激情をすべて絡め取られてしまっような気分に、ふっと肩の力が抜けた。
「靖友、抱き締めたいなぁ」
「あーハイハイ甘えたチャンだねェ」
どっちが甘いんだかと思いながら新開の両腕を引っ掴んで俺の背中へと回してやる。
新開は満足そうに口元を緩めると残った力でぎゅっとしがみついた。
そのままゆっくりと律動を再開すれば、先程とは違い新開は素直に声を出した。
「ふ、ぅ、っ、あ……ああっ」
煩くて塞ぐようにその唇に噛み付く。
昨日はしなかったそれに新開は嬉しそうに舌を伸ばした。
結局、何度繰り返してもこの男は変わらない。
時折、こうして酷くしてみても、だ。
その瞳が誰かに向かって優しく微笑むたびにこの心臓から爛れ落ちる少しばかりの嫉妬も、収まることのない欲情も、この男は知らないのだろう。
けど俺は手放すつもりもないし、こうしてたまに見る怯えた顔が満更でもないので、このイタチごっこは終わらないのであろう。
「っう、はぁ、や、ーーーっ!」
先にイってしまった新開の後を追うようにその中に注ぎ込み、腕の力を抜いて新開の上へ倒れる。
重いよ、という声がくすくすと笑っていたので、さっき迄のことはこいつの中でもう綺麗さっぱり流れてしまったのだろう。
何と無く腑に落ちないので鎖骨に吸い付いて痕をまたつけてやったら新開は硬直し、恐る恐るといった顔で俺の目を覗き込んできた。
「フハッ!何だよその顔」
「なっ、だって、また……あの……やんのかなって」
新開は視線を漂わせ、もごもごと口を動かしている。
まあ今は、こうやって慌てた顔が見れただけでも良しとしよう。
「……まぁ、少し学んだだけでも良いコなんじゃないのォ?」
そう呟きつつ新開の髪の乱暴に掻き混ぜれば、新開はふふ、と喉を震わせた。
またそれが旨そうだったから、俺はまた噛み付いてしまうのだ。
ガブリ。

震える喉を掻き潰せ



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