note



2014/03/15



小ネタ。




部室に何枚もの資料やら書類やらを転がせて、純太はペンを滑らせる。
何事もそつ無く器用な部類に入る彼がこれほどまで時間をかけて苦労するのだから、部長というものの重さをほんの少しだけ、感じた。
最も自分は隣りに佇んで見守ることくらいしか出来ないのだから本当に一かけら程しか分からないのだが。
参ったな、と純太が下唇を舐める、赤く熟したような舌が覗いて、喉が鳴るのを無意識に抑えた。
「純太、」
手持無沙汰に名前を呼べばパッと彼は顔を上げて笑ってみせる、その顔には微塵の苦労も浮かばない。
「待たせちまってるな、すまない」
上手くまとまらないもんだなと紙の束をポンッと叩く。
「いや、いい。いいんだ」
彼を待つことに嫌だという感情などひとつだってありはしない。
そう首を振るとん、と純太は短く応えて休憩とばかりに背をうんと伸ばした
「しかし肩凝っちまうよな、金城さんは大丈夫だったのかな?」
ぐるぐると疲れを飛ばすように腕を回して唸る彼に揉もうかと言ったのは単純に労わってやりたかったからだ。
「おっ!マジで?頼むわ」
純太は嬉々としてくるりと座り直し、俺に無防備な背中を晒してみせた。
その肩に触れて、初めて俺は自分の発言の意味を思い知って後悔する。
筋肉がついて多少角ばった肩は、想像通りに硬くなっていた。
盛り上がったそこに力を込めて指を喰い込ませれば、ぴくりと筋肉が動くのが分かった。
嗚呼、これはいけない。
自分の中の熱が腹の周りをぐるぐると巡っているのが分かって、眩暈がした。
純太は気の抜けた声を上げて目を細めているが、俺は剥きだしの項から目を逸らすのに必死だった。
後ろでひとつに括られた髪が緩くうねって跳ねるたびに、鍛え上げたはずの心臓は縮こまる。
こんな風に溢れそうなくらい熱を貯め込んだのは久しくて、忘れていた欲に獣のようにささくれる自分の感情が懐かしくもあった。
三年生になってからあまりにも目まぐるしくて、感情をひとつ、置いてけぼりにしていた。
まあ見えないようで一杯いっぱいの純太にそれをせがむのは酷だったと思うし忘れて良かったとも思っているが、今なら許されるかも、しれない。
まあ許してもらえるかどうかは問題ではなく、俺は今の純太は大丈夫だろうと踏んで、身を屈めた。
「純太、」
先程とはまるで違う色の声に気付いたのか、純太の目が丸くなる。
それを逃がさないようにじっと見つめ返えす。一度目が合えば俺から逸らすことはない、閉じ込めるようにその顔に見入った。
青八木、と彼の唇が動くのを、流れるように追っていた。
そのまま彼はぴたりと止まる。耐えるように、ぎゅっと拳を握って。
揺らめく純太の瞳はきらりと部室の蛍光灯が反射したように瞬いている。
このまま持久戦かとこちらも耐える姿勢を取れば純太は一瞬だけ目を見張って、ふっと息を溢した。
握られていた手のひらが解かれて、その長い指がこちらを差したかと思うと、眉間に重さが加わる。
一瞬、訳が分からなくてぽかんと口を開けて呆けているとたまらず純太がふはっと笑う。
「すげー皺寄ってる」
そう笑う純太も困ったように眉尻を下げながら、口は三日月を描いている。
空気が緩やかに流れたのを感じる。
「折角イケメンなのに勿体無いぞ」
ぐいっと皺を伸ばすように親指を押し付けられて、触れられたそこが熱く爛れそうな錯覚すら覚える。
酷く甘い錯覚だ。
「純太」
誤魔化されるのが嫌でそう咎めるように告げれば、分かってるよと震えた声。
その目が泳ぐのを見て、納得する。
純太だって久々なのだ。
俺は大人しく待ってられない駄犬だ。無いはずの尻尾が垂れ下がる気がした。
それを純太はふっと鼻で笑って、あやす様に俺の頭を撫でる。
その手をそのまま自分の唇へと持っていき、ゆっくりとなぞり、純太は瞼を閉じてうん、と独りごちる。
次に目を開けたとき、純太の色は俺と同じように、熱を巡らせていた。
それがあんまりにも綺麗で食い潰すように魅入っていたら、純太は俺だけが悪いかのように、被害者の顔をして頬を染めて良い放つ。
「……降参だ」
純太が両手を上に上げたのを合図に、お預けを解かれた俺は漸くその愛しい肌に噛みついたのだった。



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -