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2014/03/15



女体化注意




笠松は女子が苦手だ。
会話も出来ない程に。
私は女子だ。
笠松は私と会話できる。
私を見て赤くなってあたふたすることなどない。
それってつまり、そういうことだろ。
悔いることなんて無いはずだ。
私は彼と普通に会話して、触れられる権利を得たのだ。
他の女子には許されない、私だけの特権だ。
何度、その優越感に浸ったか分からない。
今更その代償に打ち拉がれるなんて、我ながら滑稽だ。
「あ、」
耐え切れず、涙がぼたり、溢れる。
堰を切ったように流れるそれは頬を、服を、アスファルトを、染めていく。
両手で顔を隠しても、隙間を通り抜けて溢れていく。
馬鹿みたいだ。自分で嘲るけど、ねえ。
どうしよう、動けないよ、笠松。
「森山?」
ああ、どうして本当に、現れてしまうのかな。
酷く驚いた顔をして彼は泣いてしゃがみ込む私の前へと走ってきた。
「どうした森山、何があった」
「……笠松、」
女の子には指一本触れられないくせにこうやって私には気兼ねなく、涙を拭ってくれる。
優しくて残酷な、暖かい指先。
ずっと、この感触を独占してきた。
「大丈夫か、ゆっくりでいい、落ち着け」
この声を、独占してきた。
それなのに、狡いよな、私。
「……ねぇ、笠松」
「おう、」
「私だって、一応女の子なんだ」
「っ、悪い」
私の言った意味を違う風に解釈したのか、慌てて私の頬から離した手のひらを、今度は私が掴む。
「だから、ね」
終わりにするんだ、もう。
「私だって、恋、したり、するんだ」
「は、」
「笠松が、私のことを女として見ていないって分かってても、私は女だから、笠松に恋しちゃったり、するん、だ」
嗚呼、情けない。
声は掠れて、涙も止まらなくて。
いつもみたく冗談だって笑い飛ばす余裕もない。
「好きで、たまらないんだ」
笠松は目を見開いた後、顔を歪ませた。
瞬間、後悔する。
嫌だな、言うつもりなかったのに。
今更そんな言い訳をしてみても遅い。
私は今、笠松が好きだってことを、耐えきれない。
涙と一緒くたに流れていく3年間抱えた秘密は、あまりにも呆気なく砕け散っていく。
「ぅ、く……ふ、っ」
すっかり濡れたカーディガンの袖でまた目元を拭う。
みったくないところを見られたくなくて俯くと、両手で頬を包まれ、無理矢理また前を向かされた。
「な、」
「はは、顔ぐしゃぐしゃだな」
笠松は呆れたようにくしゃりと、笑った。
そんな風に笑う笠松を見るのは始めてで、ぽかんとその顔を眺めていたら、いつまでも泣くなと彼のシャツの袖口で顔を拭われる。
「ちょ、いた、痛いって」
「その汚え顔綺麗にしてやってんだから少しくらい我慢しろ!」
「ヒドい!」
「ほら、これで少しはマシになったろ」
「ねえ、さっきも言ったけど私女の子なんだよ?少しは優しくしたら?」
「森山は森山だろ」
「そうだけどさ……」
さっきよりもクリアな世界に、笠松がいる。
いつもと変わらない笠松が。
それが少し、悔しい。
「……もう少しくらい、泣かせてくれたっていいじゃないか」
「なんでだよ」
「な、んでって、」
そんなの、失恋したからに決まってる。
喉の奥まででかかった言葉を飲み込む。
言ってしまったら、本当にまた泣いてしまいそうだったから。
「なあ、森山」
「……なに」
「泣くことなんか一つもないだろ、俺はまだ、お前に告白の返事をしてない」
「っ、え」
何言ってるんだ、こいつ。
好きだと告げた瞬間のあの表情が、何よりの答えだったじゃないか。
「森山、一度しか言わないからよく聞け」
そう言って私を頭を撫でると、彼は深呼吸をひとつして、真っ直ぐに私に告げた。
「好きだ。もうずっと、お前のことが好きだった」
思考が、白く染まる。
え、あ、何、なに、なんて言ったの、今、嘘、だって、そんな、ねえ、
「馬鹿、なんでまた泣くんだよ」
「っ、うそ、」
「嘘じゃねえよ」
「なんで、だって、私、私、」
「だっても何もねえよ、好きだって言ってるだろ」
「うっく、笠松、かさ、まつ」
「おい、また不細工な面になってるぞ」
「っ、じゃあ、なんでそんな不細工、好きになったんだよ、う」
「……俺が好きになれるのなんて、お前くらいしか居ねえよ」
何それ、とんだ殺し文句だよ、笠松。
私はとうとう止まらない涙を拭うことを諦めて、彼のシャツにおもいきり顔を埋めた。
おい、やめろなんて声が聞こえたけど、その音色が優しくて、私はまた、涙を溢すのだ。
幸せに染まった涙を。

瞬いた未来は、
(貴方に満たされてた)



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