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2014/03/15



女体化で百合でR15注意




初めて彼女を見たとき、息が詰まった。
入学式の日、窓際の席に一人座っていた彼女の細い四肢や、真っ白な肌とか、さらりと靡く髪の毛だって、同じ生き物とは思えなかった。
教室の入り口に突っ立ったまま見惚れて動けないでいると、くるりと彼女が振り向いた。
黒目がちな瞳に見つめられ、なんて整った顔をしてるんだろうとまた硬直してると桜色した唇がふふ、と笑った。
「そんなとこ立ってないでこっちおいでよ」
軽やかな声に導かれ、ぎこちなく彼女の傍まで行く。
彼女の隣りの席に自分の名前が書かれたプリントがあるのを見て、丁度良いと腰掛けると隣りだったんだねと彼女は微笑んだ。
「あ、うん……」
「ねぇ、名前は?」
「か、笠松幸緒」
「幸緒、うん、幸緒ちゃんね」
「ゆ、幸緒ちゃん……」
「名前で呼ばれるのは嫌?」
「いや、そんなことは……」
「良かった。私は森山由枝、宜しく」
もりやまゆえ。
彼女によく似合うその名前を忘れないように、頭の中で何度も反復した。
森山の人形のような何処か凛とした美しさは、あたしを一瞬で虜にした。
実際に話してみればそれはもう残念だったが、見た目を裏切るような取っ付きやすい性格もまた魅力的だった。
不器用でキツイ物言いになってしまうあたしの傍にいつも森山は居てくれて、周りとの緩衝材になってくれた。
苦手な男から庇ってくれて、バスケでも支えてくれた。
嬉しいことがあったら茶化しながらも一緒に喜んでくれて、落ち込んでいると何も言わずにずっと隣りに居てくれた。
何度も、彼女に救われた。
森山が笑うたび、あたしの心臓は酷く跳ねた。
黄瀬のような煌びやかで花の咲くような笑顔とは違う、ふわりと、香るような笑顔が、好きだ。
好きにならないわけがなかった。
こんなに可愛く、こんなに綺麗に笑う人を。
その笑顔をあたし以外に見せるのが嫌だと思うようになったのはいつからだろう。
森山が楽しそうに話すたび、イケメンを見つけたと嬉しそうに報告してくるたび、あたしの中にはどろどろと汚い感情が沈んでいった。
その可愛い顔を誰にも見せないで、あたしだけを見つめてて。
そんな欲望は、彼女と共に過ごした日々と共に募っていった。
それがはち切れたのは、二年のIH後だった。
あたしはIHでの自分の失態を引きずっていて、更に森山への感情をいい加減抑えきれなくなっていた。
森山は彼女なりにあたしの不調に気付いて、映画に行く約束を取り止め、今日は家でまったりしようと提案してきた。
それが、いけなかった。
家に家族は誰もいなかった。
森山は無防備にベッドの上で雑誌を読み始めた。
あたしはもう、限界だった。

「幸、緒、ちゃん……?」
だから、あたしの下で目を見開いて戸惑う彼女を見ても、あたしは引き返すことが出来なかった。
手首をネクタイで縛って、怯える彼女の首筋に噛み付いた。
頭の片隅で警報が鳴っている、吐き気がする、手も震えてる、酷く頭痛がした。
それでも、止まらなかった。
柔らかな乳房が、細い腰が、ひくりと震える喉が、涙を溜めた瞳が、甘い嬌声が、すべてがあたしを狂わせた。
彼女は男と付き合ったことがないから、こんなことをするのはあたしが初めてなんだと思うと、嬉しくて仕方なかった。
「ゃ、だ、ぁっ、ゆ、きお、ちゃ、やめ、ぅ」
「はぁ、森山、もり、やま」
彼女の中へ指をねじ込み、無遠慮に引っ掻き回した。
泣くように喘ぐ姿は耽美で、更にあたしの身体を火照らせた。
立ち上がった芽を摘み、胸に歯跡を残し、無理矢理彼女を絶頂へ追いやった。

気付けば、森山は気を失っていた。
ぐしゃぐしゃによれたシーツと、放り出された衣服と、どうしようもない後悔だけがあたしを待っていた。
目の前の森山はぼろぼろで、涙の筋がいくつもあって、嗚呼、なんて、なんてことを。
「もり、やま」
名前を紡いだ途端、堰を切ったように涙が溢れ出た。
「ぅあ、ごめ、ん、森山、っ、ごめんっ、ぅう、ぁああ、うああ、あ」
なんてことをしてしまったんだろう。
彼女に助けられてきたのに、そんな彼女を傷つけて、取り返しのつかないことをしてしまった。
護りたかったものを、あたしはこの手で壊した。
最低だ、欲望のままに、自分の都合で、親友を汚した。
許されない罪を犯した。
「ぁああ、も、りやっま、ごめん……ごめんね、ぁ、ううぅ、ど、しよ、さいっていだ、あたっ、あたし、う、」
どうしようもない自己嫌悪の渦の中泣きじゃくっていると、「幸緒ちゃん、」と掠れた声があたしを呼んだ。
弾かれたように顔を上げれば、ぼんやりと焦点合っていない目があたしを見つめていた。
「幸、緒ちゃん……」
「森山っ!」
「腕、とって、痛い」
「あ、ごめ、」
慌てて腕のネクタイを解けば白い手首が擦れて赤くなっていて更に泣きたくなった。
「ねぇ、」
「森山、ごめん、謝って許されることじゃないって分かってる……でも、ごめん、ごめんねっ、森山、」
「……なんでさ、こんなことしたの」
「っ、も、森山のことが、好きなんだ、ごめんね」
「すき……?」
「うん、恋愛感情で、好きだ。森山が好きで、好きで、耐え切れなかった……最低だろ」
罪は一生かけて償う、もう森山には近付かない。本当にごめんと頭を下げた。
もう、死んでしまいたかった。

ふと、頭を暖かいものが優しく触れた。
森山が、あたしの頭を撫でていた。
「森山……?」
「良かった、」
「え、」
「嫌われたかと、思った、から、」
頭を撫でる手のひらが止まったと思うと、森山はほろほろと泣き出した。
「私、我侭だし、IHも、ベンチで、幸緒ちゃんのこと、支えてやれなかった、自分を責める幸緒ちゃんに、私何も言えなかった。幸緒ちゃんは、私に怒ってると思った。怒ってるから、こんなのことをするのかって、思ったんだ」
泣きながらそう溢す森山に違う、違うんだと首を振るとうん、分かってると森山は涙を拭った。
「逆、だったんだな」
どう返したらいいか分からなくて黙って俯くと、森山はでも、と口調を強くした。
「だからって無理矢理は、駄目だろ」
「っ、ごめ、」
「いい、謝罪ならさっき聞いたから」
「……?」
「私もさ、正直幸緒ちゃんのこと恋愛感情で好きかって聞かれたら分かんないし、何よりイケメン好きだし。でも、人として幸緒ちゃんのことは、好きだ」
「は、」
「だから、付き合ってみようか、幸緒ちゃん」
今、なんて言った。
勝手に恋心を募らせた挙句、一人で壊れて彼女の身体を嬲ったあたしに、彼女は今なんと言った。
「う、そ」
「流石に冗談でこんなこと言わないさ、ちゃんと考えた」
「……怒らないのか」
「怒ってない」
「でも、酷いことをした」
「幸緒ちゃんもさ、苦しかったんだろ。女の子を好きになって、しかも私みたいなのさ。幸緒ちゃんの気持ちに気付かなかった私も悪いから、おあいこだ」
「やめて、無理しなくていいから、あたしが勝手に、好きになったのが悪いんだから」
「好きになるのとは悪いことじゃないぞ。それに、私は素直に、幸緒ちゃんのことをもっと知りたいって思ってる」
それじゃあ駄目か?そう言って首を傾げる姿に、また涙が溢れる。
「森山、好きだ」
好き、好き、好き。何度も繰り返せば森山はくすぐったくなると笑った。
「ねぇ、名前呼んでよ」
「なっ、」
「いいでしょ?恋人同士なんだし」
きらきらとした瞳で見つめられ、ごくりと息を飲む。
きっと、これは特別なことなんだ。
それは彼女への償いで、悲しみの終わりで、恋の始まりだ。
深呼吸して、そっと、囁いた。
「由枝」
嗚呼、なんて愛しい名だろう。
視界がまた滲む。
「幸緒ちゃんは、泣き虫だね」
そう言って人差し指で涙を攫っていく森山の桜色の唇に、自分のそれを重ねた。

ブーゲンビリアの初恋
(どうしようもなく、貴女が好きだ)



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