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2014/03/15



成人パロで悲恋注意




「ずっと、知ってました。でも、確信に出来なかったんです。したくなかった」
その声はとても柔らかい音色なのに、俺は怖くて、動けなかった。
「けど、もう隠すのは無(理)です」
わけが分からなくて戸惑う俺に、
彼の唇が鮮明に告げた。
「も(り)やまさんの中には、まだあの人がい(る)」
驚くほど、平坦な声で。
「あの人、って、誰」
やっとのことで吐き出した言葉は、自分に止めを刺すような問いかけだった。
「主将……笠松さん、です」
態々言い直す彼に、嗚呼すべてバレてしまっているのかと、冷えた脳で呟く。
「そう、だな」
早川と出会う一年前、俺は笠松に想いを寄せていた。
決して叶うはずのない想いを。
「けれど、今は違う」
彼は三年の冬に、黄瀬と付き合い始めた。
笠松が黄瀬のことを好きなのは、もうずっと知っていた。
嫉妬をする隙も与えてくれないくらい二人はお似合いで、嬉しかった。
俺の想いはそこで幕を閉じたのだ。
「もう随分前のことだ」
今更気付かれると思わなかったけどなと笑えば、早川は顔を曇らせる。
「……怒るか、やっぱり」
いくら昔の事とはいえ、俺は笠松のことが好きだった。
それを早川に伝えないまま、俺たちは付き合い始めた。
気持ちの良いものではないだろう、隠し事をしていたのだ。
けれど、俺はあの想いを誰にも知られずにひっそりと埋葬してしまいたかった。
密かな恋心は、密かなままで、終わらしてやるべきだと思っていたから。
「ごめん、謝るよ」
「そうじゃ、ないんです」
息を詰まらせたような顔で、早川はそう言う。
ならなんだと首を傾げれば、意を決したように、早川は吐き出した。

「笠松さん、黄瀬と養子縁組組むそうです」
もう、離れる気などないから、繋いでしまうんだそうです。

何もかもが、止まった。

「ほら、やっぱ(り)」
すごく苦しいって顔、してますよ。
抱き寄せられた腕の中、必死で首を振る。
拒絶したかった。
違う、違うんだ。
「好きなんですよ、今も」
嘘だ。
いやいやと駄々を捏ねるように腕の中でもがく俺を見て、早川は苦笑する。
何だよこれ、いつもと逆じゃないか。
いつもなら、俺が早川のことをしょうがないなって甘やかすのに。
頭を撫でて、おいでって笑ってあげるのに。
「甘えてたんですね、オ(レ)も、貴方も」
そんな風に、見透かすなよ。
俺のこと、貴方なんて呼ぶなよ。
そんな他人みたいに、呼ぶなよ。
「早川、」
「ずっと、オ(レ)の向こうにダ(レ)かを見てい(る)ような気がしていたんです」
絞り出すような声で、彼は語る。
「けど幼いオ(レ)はそれを(理)解しようとせずに突っぱねて、貴方を手に入(れ)(る)ことに夢中でした」
その声に、身体が渇いていくような感覚に、目眩がする。
「考えたくなかった、他の人とわ(ら)う貴方を」
泣きそうな声に思わず縋り付きそうになる指先を丸めて、押さえつけた。
なあ、早川。
いっそ俺がすべて悪いんだと言ってくれよ。
騙されたと罵ってくれ。
じゃないと自分の感情に押し潰されそうなんだ。
彼を好きになってしまった自分を、殺してしまいたくなるんだ。
どこまでも自分勝手で、我侭を言う俺を、嫌いになってくれ。
「それでも、後悔してません」
彼の偽らない笑顔に、胸が潰れる。
「オ(レ)はも(り)やまさんが好きです。これか(ら)も、ずっと好きです」
無邪気とは違う、大人の顔で早川は微笑む。
「だか(ら)、待っています。も(り)やまさんが振(り)向くまで」
待つだなんて、出会った頃なら絶対口にしなかったような言葉を、早川は今俺にぶつけた。
バスケは長いことしていない。崩した敬語も、使わなくなった。
それ程の時間が過ぎても、俺はこいつをちゃんと見つめてやれなかったらしい。
最低だ、ぐっと唇を噛む。
「もり(や)まさんは、わ(る)くないですよ」
やめろ、慰めなんかいらない。
優しくられる分、傷つく。
だってそうだろ。
お前がこれから何を告げようとしてるか、分かってしまっているんだから。
もう、この腕の中にはいれない。
遠くなってしまう、彼が。
失くなってしまう、消えてしまう。
壊れて、しまう。
嫌、だ。
「泣かないで下さい」
嗚呼、その声は暖かく俺の中へ積もっていくのに。
濡れた目尻を拭う指だって、こんなにも優しいのに。
全部、嘘にしないでくれ。
狡いじゃないか。
「森山さん、」
ゆっくり喋ればら行が言えるところも、真っ直ぐな瞳で見つめてくるところも、全部、狡い。
「俺、は、」
なあ、お前のこと、本当に好きだったよ。
声にならない声を遮るように早川は笑って、最後を告げた。

「俺と、さよならして下さい」

終焉、ネバーランド
(甘い夢にトドメをさして)



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