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2014/03/15



フォロワーさんへ捧げたものですがいつにも増して雰囲気小説。




例えば、この部屋から出たら死んでしまえれば良かった。
一人分のシーツの中に窮屈に身体を収めて、黄瀬はそう微笑んだ。
「ここから出たら、俺はもう息が出来なくて死んでしまう。この世に一欠片も残さず、消えてしまう」
目を蕩けさせてそう語る黄瀬の瞼をなでれば、くすぐったそうに微笑む。
「外の世界では貴方に触れられない、それだけで、俺は死んでしまうんスよ」
彼は笑みを携えてるのに、哀色を瞳の中で泳がせている。
それを見るのが嫌で彼の身体を自分の腕の中へ手繰り寄せると、狡い、と黄瀬は呟いた。
「笠松先輩、俺はね、貴方にならどうされても良かった。何でもいい、好きにして欲しかった」
渇いた唇は疼いていた。
「噛み付いてくれても、ころがされても、傍に居れるならどんなことでも出来ると思った」
シーツに転がった声は、泣きじゃくっていた。
「けど貴方が、乱暴に優しいから」
どっちだよ、そう笑ったが、笑えていただろうか。
浸食する鼓動を止めたくて、眩い髪をぐちゃぐちゃに撫でて、痛いくらいに強く抱きしめて、吐き出すように好きと言った。
「だから、そういうところッスよ」
無視して浮き出た鎖骨をなぞる。
散らばった嬌声は、もう泣いてはいなかった。

この部屋が箱庭なら良かったのに。
そうしたら、俺は笠松先輩の瞳の中で生きてられた。
ただただ散らばっていく言葉に黄瀬は埋まっていく。
何度も、繰り返し願う。
「なら、俺はどこで生きてるんだよ」
「決まってるじゃないッスか」
黄瀬は小指で俺のそれを掬うと、囁いた。
「この、箱庭で」
ふたりで、小指に煌めくコントラストを信じ切って、死ぬの。
黄瀬を埋め尽くした我侭たちは、掠れて、千切れてしまいそうだ。
そんな微かな我侭でしか、彼は溺れられないのか。
「馬鹿か、お前」
彼の額を指で弾くと、彼は驚いてどうして、と瞳で訴える。
拒絶されたと思ったのか、唇は酷く震えていた。
馬鹿だな、本当に。
彼の頬に指を滑らせ、ゆっくりと彼を見据える。
「お前も生きるんだよ、ここで」
そのたった一言で、黄瀬はぴたりと動きを止めた。
瞳を震わせて歓喜し、顔を歪めてほろほろと流す涙に眩む。
嗚呼、なんて甘美なんだ。
ぱちりと瞬く睫毛に潜めいた世界を、今、遮断する。


(箱庭はふたりのために閉じるの)



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