前ジャンルのお気に入り作品のセルフリメイクを笠黄で。
「黄瀬、」
肩は依然として縮こまり、折り曲げた足を大事そうにその腕で抱え込む。
隠している顔がどんな表情かなんて一瞬で想像がつくから、余計苦しくなる。
俺も彼も、幼いままのこの感情をうまく処理しきれない。
黄瀬はその度に心を滲ませて、片隅に縋りついて丸くなる。
そして俺は彼のいる片隅を探すのだ。
三角になっている黄瀬の腕を引き剥がせば、揺れる瞳から流れる水滴がまたひとつ、地面を濡らした。
華奢な身体をぐっと引っ張って自分の胸へ押し込める。
こうやって慰めるのも何度目だろう。
堂々巡り、イタチごっこ、そんな言葉が脳髄でため息をついている。
ぐじゅり、と鼻を鳴らして黄瀬はまだうなだれている。
背中に這う手がきつく俺の服を握る。
そのまま黄瀬は小さく呟いた。
「笠松、先輩」
くぐもってる筈なのに、彼の声ははっきりと聞こえる。
「どうして、抱き締めてくれるんスか」
だから聞き逃すことも出来ず、言葉に詰まる。
腕の中で流れる吐息は熱くて、彼の四肢の震えが全身に響く。
「……怖いのか」
「違、う、だって、先輩はっ、俺を見捨てられる、でしょ、？」
潤んだ声でそう問われる。
愛してたいのに、会いたいのに、放したくなる。
そんなのは数え切れないくらい繰り返した。
慣れっこだ、お前だってそんな弱くないだろ。
否、弱いから越えられたのか。
離れられないから、その選択肢を選ばないでいられた。
まだ思い出にしたくないだなんて、まったく呆れてしまう。
黄瀬、お前だって見送る気なんてないんだろ。
その飲み込まれてしまいそうな白で、全部俺の思考を奪っていく。
俺の中の傷痕なんて溶かしてくれるんだろ、なあ。
「おい、」
「……はい」
「また、泣きたくなったら見つけてやる」
「う、ん」
「そしたら、一回全部投げろ」
「は、」
「溢れたら、そのまま置いていこう。また注げばいい」
「そしたら、どうなるんスか」
「馬鹿、夜になるだけだ」
モザイクみたいな朝がやって来ても、それなら安心だろ。
俺も、お前も。
だから、もう慌てて目をそらしたりするな。
誰かの一瞥は俺が殺してやる。
ゆるりと顔を上げた黄瀬が笑った。
「ねえ先輩、」
夜明けが来なくても、二人で明日を待っていようね。
そう甘く囁く声に、同じように泣きたくなった。
seek
（暴いてくれる手のひらを待っている）