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2014/03/15



緩やかな享受の続き。




最初は驚いた顏をされた。
その後に、少し怒ったように知らなかったと言われた。
言わなかったからと答えたら、言えよって小突かれた。
そして、笑ってくれた。
嬉しくて、涙が出そうだった。

「良かったじゃん」
羊羹を綺麗に楊枝で切り分けながら、森山さんはいつも涼しい顔でそう言った。
無表情だけども声色は優しくて、喜んでくれてると分かって恥ずかしくなる。
「はい、ありがとうございました」
「いや、俺何にもしてないし」
「俺の気持ちに気付いてくれて、背中を押してくれました」
「自分から話したのは伊月くんの方が凄いさ。俺は話す前にバレちゃったから」
「それでも、お礼が言いたかったんです」
日向達は森山さんの言った通り、家の事情を知った後でも変わらなかった。
いつもの彼らで、いつもの俺でいさせてくれた。
そのきっかけをくれたのは、紛れもなく目の前にいるこの人なのだから。
「ありがとうございました」
もう一度、少し強引に言えば森山さんはそう、と微笑んだ。
「あ、この羊羹美味しいな」
「良かった、お口に合って」
「お茶もすごく美味しい」
約束通り俺の立てた茶を啜って、ほう、と一息吐く彼はなんというか、色気というか、繊細な美しさがある。
それは活けられた花にも似ていて、俺は思わず見惚れてしまう。
「ん、何?」
「あ、いや、綺麗だなぁ、と」
つい素直にそう述べてしまうと、森山さんはその切れ長な漆黒の瞳をぱちりと瞬かせた。
「……鏡見てから言ってくれ」
「え?」
「頭のいい奴に頭いいねって言われて、嬉しいと思う?」
「ええと、嬉しくはないんじゃないかと……」
話の脈略が見えなくて首を傾げると森山さんはもういいと言うようにため息をついて、そういえばと話題を逸らした。
「美味しい善哉がある店を知ってるんだ。今度一緒に行かないか?」
「善哉……いいですね、行きましょう」
「良かった。海常にはあまり甘いものが好きな奴がいないから、一人でいくのは恥ずかしいと思っていたんだ」
「恥ずかしい、ですか?」
「そうだろ。男が甘いもの好きだなんて」
「うーん、そうなんですけど。森山さんなら似合いそうな気がして」
「はぁ?いや、うん、まあ、伊月くんなら分かるけどさ」
「俺ですか?甘いのは好きですけど、似合わないと思いますよ」
俺は森山さんと違ってむさ苦しいだけの、普通のオトコですしと言うと、森山さんは頭を抱えた。
「……伊月くんは、何と言うか、鈍感なんだな」
「え、そうですか?」
「他人の気持ちには敏感だと思う。良く気が付くし、それは付き合いの短い俺にも分かる」
けど、と森山さんは涼やかな瞳をこちらへ向ける。
「自分に向けられる気持ちには、鈍感だ。だから、誠凜の奴らがお前をどう受け入れてくれてるのか、気付かなかっただろう」
その真っ直ぐな視線と言葉に思わず息を詰まらせると、それを和らげるかのように森山さんはにこりと微笑んだ。
「もっと、自分本意で考えてみたらどうだ。難しいなら、周りが自分のことを話すとき、触れるとき、どんな風なのか観察してみるといい」
「はあ、」
「すぐには分からなくても、伊月くんは馬鹿じゃないし。まあ大丈夫だろ」
「……森山さんは、良く見えてるんですね。周りも、自分も」
特別な眼を持つはずのない彼に、すべて見透かされているような気がした。
「いや、」
そうじゃないんだと、森山は苦笑する。
「気付かされただけなんだ、俺も」
「誰にですか?」
首を傾げると、森山は先程よりもずっと恥ずかしそうに、こう言った。
「仲間っていうのは、いいよな」
その言葉を理解した俺は、笑って深く頷いた。

緩やかな同調
(きっと似てるんですね、俺たち)



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