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2014/03/15



女体化注意




ああ、私ってどれだけ恋愛運のない人間なんだろう。
キィキィと揺れるブランコは答えてくれない。
チカチカと電池の切れかけた街灯も応えてはくれない。
地面を踏んだらじゃり、と鳴いた砂の粒が私に似ていて、ぎゅうっと鎖を握って息苦しさに耐えた。


中学の頃の淡い初恋を捧げたのは、孤高の強さを持つ人だった。
硬い青色の髪、褐色のがっしりとした身体、勝利に飢えた瞳。
どこまでも男の子らしくて、私にはないそのすべてに惹かれた。
加減を知らない彼は、私が勝負を挑む度に全力で相手をしてくれた。
女の子だから、モデルだから。
そういう目で見られないことがこんなに気持ちいいだなんて知らなかった。
彼に肩を組まれるとき、いつも心臓がうるさくて仕方なかった。

初恋を砕いたのは、休憩時間が終わっても姿を見せない彼を探しに来た体育館の裏。
見えなければ、良かったのに。
背中をこちらへ向けた彼は、目の前にある水色の髪の毛をさらり、撫でた。
私はその髪の持ち主を知っている。
彼女は、私と同じレギュラーで、彼の相棒だ。
「テツ、」
驚くくらい甘い声で彼女を呼んで、その両腕で白く華奢な身体を包み込む。
青峰君、そう紡ぐ赤い唇を彼のそれが、塞いだ。
それを認識した瞬間、世界が急に色を無くしていって、さっきまで無意識していた呼吸をすることが、とても難しくなってしまった。
視界が潤んで、思わず彼の名を呼ぼうとした。
けど、呼べなかった。
彼の腕の中で水色の少女が、とても幸せそうに微笑んだから。
馬鹿な私は好きな人の彼女を、親友として慕っていた。

それからの私は恋愛なんて二度とするもんかと決意して、バスケに、モデルに必死になった。
私の恋人はボールとファンのみんななんだと言い聞かせて、逃げるように入学した海の近い高校。
そこでまた、私は恋に落ちてしまう。
今度は先輩だった。
彼はとても口が悪くて、すぐに手が出る人だけど、不器用に優しい人。
真っ直ぐで強気で、けれども凛とした冷静さが、私を魅力して離さなかった。
彼の放つボールは不思議と手に吸い付いた。
いいコンビだってレギュラーのみんなも言ってくれてくすぐったい気持ちになった。
女の子に奥手な所も可愛くて、なのに私には普通に接してくれた。
特別な気がして、嬉しかった。

今日は久しぶりに一人で買い物に来ていた。
お気に入りのブランドの新作も買えたし、これからどうしようかと考えていたら、視界の隅にに見覚えのある姿。
間違えない、彼だ。
どうしよう、休日に彼に会えるだなんて。
顔が緩むのを隠すように前髪を整える。
声を、かけてもいいだろうか。
そういえば昨日、彼はバッシュを見に行きたいって言ってた。
もしそれが目的なら一緒に行っても構わないだろうか。
いや、どんな用事でもついて行って見せる。
そう乙女心に決心し一歩踏み出す。
途端、彼が微笑む。
どうして、私のほうを向いていないから、気づいてる筈がないのに。
彼はこちらを見ないまま、優しげに名を呼んだ。
「森山」
あの時と同じような、甘い声。
その先には少し化粧をして、可愛らしい花柄のワンピースに身を包んだ少女が切れ長の瞳を細めて笑っていた。
私はあの人を知っている。
だって彼女は、レギュラーで、先輩の同級生で、数少ない私に良くしてくれる先輩で、
ごめん、待たせた?と謝る彼女に大丈夫だと答える彼は穏やかだ。
とても自然に、二人の指は交わる。

吐き気がした。


とにかくこれ以上歩けそうになくて、ふらふらと辿り着いた公園のブランコはひんやりと冷たく私を受け入れた。
誰もいない公園で乱れた息を整えていたら、何時の間にか夜になっていた。
街灯が映し出す自分の影を見つめながら思う。
彼らが選んだ人は間違ってない。
とても素敵な人だ。分かってる、分かってるけど。
私のほうが、顔も、スタイルも、ずっとずっと良いのに。
バスケだって強いし、料理だって上手い。
それだけじゃない。
何だって、してみせるのに。
ぼたぼたと、スカートに染みが出来ていく。
本当に馬鹿だ。
こんな嘘と嫉妬に塗れた女を誰が愛するもんか。
いくら取り繕っても、私の中はぐちゃで汚い。
どうして、どうして。
何度聞いても誰も応えてくれない。
誰も。

「黄瀬?」

急に降ってきた声にびくりと肩が震える。
顔を上げるとそこには今の黒子の相棒で、私を負かした奴が立っていた。
「火神っち……」
「おま、なんで泣いてんだよ!何かあったのか?」
いつも強気な態度がなりを潜め、どうしたんだと聞きながら私の目線に合わせてしゃがんでくれる。
本気で心配してくれてる目だ。
余計に涙が溢れて、思わず彼に全部打ち明けてしまった。
自分の理不尽なこの感情を、聞いて欲しくて堪らなかった。


「落ち着いたか?」
全てを吐き出し、泣きつかれた私は暫く放心していた。
火神っちは近くの自販機でスポーツドリンクを買って来てくれた。
ありがとうと枯れた声でお礼を言うとひでぇ声だなと笑われた。
火神っちは、何も言わずに私の話を聞いてくれた。
私の手を強く握って。私の目を真っ直ぐ見て。
そんな風に優しいから、私は益々感情を止められなかった。
「ごめん、火神っち」
「あ?」
「変な話聞かせちゃって。忘れて欲しいッス」
「気にしてねぇよ。つか自分の心配しろ」
「私はもう大丈夫ッス。もう、恋は出来ないと思うし」
「……」
「もう、こんな思いは、したく、ない」
ああ、折角泣き止んだのにまた涙が出て来そう。
でも、もう嫌なの。怖い。悲しい。
目尻に溜まった涙がこぼれ落ちる寸前、腕を引かれた。
急な力に逆らうこともできずにガシャン、とブランコから降りた先に、暖かい体温。
抱きしめられていた。
「火神っち……?」
「もう、一度」
「え?」
「もう一度だけ、恋してみないか」
「っ、な、」
「絶対に、泣かせたりしない。悲しませないから」
「……火神っち」
「だから、だから黄瀬、」
俺を好きになってくれないか。
激しく鳴り続ける彼の鼓動を聞きながら、私は彼の言葉を幻のように胸の中で繰り返していた。

煌めいて、恋
(貴方を、好きになってもいいですか)



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