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2014/03/15



女体化注意




蜂蜜色の髪を振り乱して、彼女は走る。
真っ白いバニラのような肌は汗の粒を弾いてきらきらと輝く。
ジャージが捲れるのも気にしないまま、彼女は蕩けそうな瞳でお目当てのものを捉えると、その頬を苺のように染め上げる。
切り取られた林檎そっくりな唇で呼ぶのは、決まって我らが主将の名前だ。
笠松さん!
その響きすら甘い。甘ったるい。
……美味しそう、だと思う。
男ならまず食べたいと思うだろう。
あんな風に甘い匂いを纏わせて、ふわりと微笑まれたら、誰だって墜ちてしまうだろう。
同性の私がそう思うほどに、彼女は綺麗で、それ以上に魅力的な、きらきらとした何かを持っている。
それに嫉妬していたらきりがないし、彼女は私にとって可愛い後輩だ。
だから、今まで気にしなかった。
なのに、彼女に名前を呼ばれて振り返った彼の、瞳の奥に宿るものを私は見てしまった。
それが何か、理解してしまった。
あ、と思ったときには彼女は彼に抱きついていて、それはいつもの光景なのに、持っていたペットボトルは地面へ転がっていた。
水道の蛇口から流れる水の音が、やけに遠くに感じた。
二人の姿も、遠く、まるで画面の向こうのように感じる。
夏の熱さのせいか魘された頭で、私はぼうっと考える。
どうして私は、彼は、彼だけは彼女の魅力に惑わされないなんて、そんな風に思っていたのだろうか。
女性が苦手だからだろうか、部活に熱心だからだろうか、彼女を後輩だと思っていたからだろうか。
彼女が、彼を好きなことはずっと前から知っていたのに。
どうしてそれに振り向かないなんて、思っていたんだろう。
私が、傍にいるからなんて、なんて勝手なことを思っていたんだろう。
私にはないものをたくさん持った彼女に、私が勝てるものなんて彼と過ごしたたった一年の日々くらいなのに。
何に優越感を抱いてたんだろう。
睫毛をカールさせても、シャツのボタンをひとつ外しても、短いスカートを翻したって、彼の瞳には届かない。
私は、きらきらと溢れるあの光はなれない。
なりなくなんて、ない。
精一杯の強がりで空を仰いだら、雲が滲んだ気がした。
嗚呼、もう太陽なんて、眩しくて見れないよ。
ねぇ、笠松。
好きだって言ったら、お前は傷付いてくれるの。

貴方の傷口になりたい
(傷付けること、出来るわけないのに)



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