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2014/03/15



前ジャンルのお気に入り作品のセルフリメイクを小森♀で。




やめてって、もう嫌だって何度も自分のお口にお願いしたけれど、
一度壊れてしまったチャックを俺は直せないまま、小堀への悪口を、罵倒をやめれないでいた。
ざぶざぶと言葉は彼の元へは向かわずに目の前のカフェオレへ投入されていく。
それをスプーンで掻き混ぜているばかりの俺は小堀の顔なんか見れない。
小さくて古臭い喫茶店に降り注ぐきらきらとした木漏れ日が、手を付けられないままお行儀よく待っているショートケーキの甘い香りが、優しく俺を責めている。
嗚呼きっと俺はこのまま汚いもの全部吐き尽くして死んじゃうんだ。
だから角砂糖は甘くなくて、ぶつけた膝も痛いまんまなんだ。
そう思うと今度はふるふると視界が震えて、目ん玉までカフェオレの中に落っこちちゃいそうだから、俺は慌てて両手で目蓋ごと目を押さえた。
そしたらさっきから一言も喋らなかった小堀が森山、と俺の名前を呼んだ。
俺は両目を押さえ付けたまま何、って聞く。
声まで震えていて、本当に俺はどうにかなっちゃったんだと悲しくなっていたら、いきなり白くて眩しいものが視界に入ってきた。
小堀が俺の手を引っ張ったから、目の中に日差しが射し込んできたんだ。
俺はびっくりしてもう片方の手も顔から離してしまった。
そしたら、目玉じゃなくて涙がぼろぼろと流れてきて、俺の頬を伝ってカフェオレにとぷん、それを呆然と見るだけの俺はひくりと喉を鳴らしていた。
「ごめん」
彼が悲しそうに言う。
やめてやめてそんなこと言わないで何が悪いのかも分からないのに謝らないでよ。
そう言いたいのに俺はしゃっくり上げて泣くことしかできない。
どんどん涙がカフェオレに沈んでいく。
はやく泣き止まないとカフェオレが溢れちゃう。
もうこれ以上は、受け止められないから。
「森山」
優しい、本当に優しい声で小堀は俺を呼ぶ。
俺はその声が大好きだから、息も詰まるほど切ないのに、思わずなにって応えちゃう。
「俺さ、森山が泣くの駄目なんだよ」
その弱々しい声に俺は泣きじゃくった汚い顔を小堀に向ける。
「だから、森山が泣き止むなら何でもする。悪口も聞くし、気に入らないところは直すから。頼むから泣かないでよ」
小堀は苦く笑う。
狡い、そんなのは卑怯だ。
俺が全部悪いのに小堀がそうやって許してくれるから、俺はどんどん甘くなって、小堀はどんどん苦くなる。
本当はもっと優しくしたいのに。
もっと優しくできるのに。
「……小堀」
呼んだ声は干からびていて、俺はますます惨めな気持ちになる。
「森山はどうしたいの?」
それでも小堀のすべてが柔らかく俺を受けとめてくれる。
ちょっと困ったような顔で俺のお願いを聞いてくれるから。
だから、俺は、
「小堀、好き」
「うん」
「ちゃんと、好きだから」
「うん、知ってる」
「小堀は、俺を嫌いになっちゃ駄目だから」
「大丈夫だから、森山」
「駄目だから」
「うん、大好きだよ」
すべてを汚さで埋め尽くした惨めな俺でも、笑って彼を迎えられる明日が来るように、抱き締めてくれる両腕の中で祈る。

甘味に悲涙する
(苦味に安堵する)



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