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2014/03/15



女体化注意




立ち去らねば。
そう思うほど足は動こうとしない。
私をここへ留めるのは、腕一本だ。
それだけで簡単に私は動けなくなる。
それは私が女で、彼が男だからなのだろうか。
「俺を無視するとはいい度胸じゃねえか」
立ち塞がる彼の瞳は冷ややかに私を見つめる。
花宮、そう呼べば私とは違う、決して細くない彼の指が私の皮膚へと沈んだ。
痛い、と呟いても力は強まるばかりだ。
「それなりの理由があるんだろうな、古橋」
「無視したわけじゃない。気づかなかった」
「嘘だな。障害物なんて何もない廊下だ。俺が見えなかった訳がない」
「考え事をしてたんだ」
「ふぅん、肩をビクつかせて、俺から背を向けるようなことを考えてたのか?」
特有の歪んだ笑みに私は口を閉ざす。
「今更怖くなったのかよ」
「……違う」
「ふは、なら答えろよ。どうして俺を避ける」
彼の言葉が棘のように私を刺す。
思わず顔を顰めたら、花宮が目を瞬かせた。
「へえ、お前でもそんな顔するんだな」
「私だって人間だ、表情くらい変わる」
「人間、ねぇ」
人形かと思ってたわ。
そう言ってニタリと笑う花宮に、私はまた刺される。
そうならば良かったのに。
何も感じずに、彼の言うことを忠実に、確実にこなせる人形でありたかった。
否、実際に私はそうなれていた。
なれていたのに。
人形は、壊れてしまった。
「さっさと答えろよ」
ハッとして顔を上げれば凍るような瞳に苛立ちを含ませて彼は私を見下ろしていた。
「嫌になったならそう言え」
「……違う」
「いいわ、いい加減ウゼェよ」
その言葉に、心臓が潰れる。
腕が軽くなる、体温が、離れていく。
嫌だ、そう思ったら、抑え切れなかった。
「離さないでほしい……」
溢れた声は、泣きそうな音色だった。
「は、ぁ?」
お前マゾかよ。
ぎゅうっと、腕に圧が加わる。
痛い、痛い、はずなのに。
「違う、」
「はあ?」
「違うの、花宮」
浸食は、私に禁忌を犯させた。
震えてるのは、私なのだろうか。
「嬉しいんだ」
貴方が好き。なんて大罪なのだろう。

私を霞ませる紫
(貴方の色が滲みすぎたの)



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