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2014/03/15



古橋の独白。




色とりどりの愛情を踏み付けて、愉快そうに笑う彼の内心は退屈で満たされていた。
彼が欲しいものはいつだって俺の手の中にはない。
彼の怠惰を加速させるような、つまらないものばかり、俺は抱きしめている。
だから、爪先でさえ俺から彼には触れられない。
毒されてしまう、壊されてしまう。
怖くはなかった。
むしろ、そのことに酷く気分が高揚した。
怯えた顔よりも、鈍く響く音よりも、散らばる血液よりも、コートに転がる四肢よりも、何よりも。
けれど、それ以上の高鳴りを、彼は簡単に俺に与えた。
彼が、その指で俺に触れてくる時だ。
皮膚を裂いたり、髪を千切ったり、時に俺の中へ入り込んでくる指。
たった10本のそれを俺は麻酔のように感じていた。
甘く寛美なそれは気まぐれに俺を掻き回して、途端に消えたりにする。
能面のようなこの顔が歪むのを、彼は目を細めて見ていた。
全てが灰色に化したことはどうでも良かった。
俺はただひとつ色づく、彼の双方の眼球の在り処が知りたかっただけだ。
それだけを望んだ。それだけのために、この身体が空っぽになるまで、すべて彼に移したのに。
『彼の為だけに』、そんな感情を抉り棄てる。
棄てなければ。
一粒でも彼が知ってしまえば、拒否、拒否、拒否、停止。

名を紡ぐことは、怖いと思えた。
溢れるかもしれない、拾われるかもしれない。
微かに唇は震え、喉が無意識に唾を飲む。
嗚々、俺は怯えてるのかと自覚したら、それが酷く尊いものに思えた。
この感情は彼だけが俺に与えられるものだ、誰にも、他の誰にだって出来やしない。
胸を軋ませる彼の存在を、触れることの出来ないそれを、それを、

都会のロジック、真ん中で鳴き声がする。
果たしてそれは異物なのか、それとも。

ささくれた鼓動は、だらしなく息をしていた。

恍惚なる畏怖
(その視線で腐敗したい)



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