恋死に


 手を延ばせば掬えてしまいそうな瑞々しい空の下で、滴る陽射しに照らされて、純白が踊る。人生で一番美しい瞬間を生きている彼女は、柔らかく笑みを描いていた。
 女としては一度は夢見たウェディング。いまは、挙式が終わったあとのブーケトスである。式前の緊張も解け、階段の上段で朗らかに笑い寄りそう幸せな二人。下の我がと意気込む女性群に紛れ、数馬はただ一心に荒れた海の波の如くざわめく胸をそっと、手で抑える。彼女を、純白を目で追いかける。
 彼女は数馬にとってとても大事な女の子だった。小さな頃から片時も離れることのなかった、優しく強い幼馴染。影の薄い己を大衆のなかからすぐに見つけて、手を差し出してくれた大切な存在。そんな彼女はもう、いま隣に佇むあの男のものだ。
 自分が男だったら、否。自分が前世と同じく男として生まれていたら。瞳を瞼で覆い隠せば、浮かぶのは桃色を誇らしげに纏う彼女の姿であった。彼女と同じ性別になり同じ目線で、男では作り得ない関係を築くことが出来たのは良かったけれど、自分のものには決してならないのだから人生というのはとても難しい。
 ならばせめて、彼女が幸せなら自分も幸せだと錯覚しよう。自分の欲のための恋を、相手の幸せのための愛へと変えてしまおう。本心からこれっぽっちもそう思わないけれど、無理矢理にでも自分で自分を騙すのだ。きっとその方がこれから先、楽であろうから。
 幸せを運ぶといわれる小さな花束が宙に舞う。数馬は目尻に浮かぶ涙をハンカチでそっと拭い、花束へと手を伸ばした。
 最初の一歩はこれからだ。これを抱きかかえ、彼女に叫んでやる。
 愛しき人よ、お幸せに!

13/02/04