しゃらん、ぱりん。


 あの戦乱の世から五百年余りを経て私は兵ちゃんと再開した。場所は近くに商店街がある信号。信号を挟んだ道同士で私達はお互いの姿を認めた。向かい側の道に佇む彼女はこの辺りではまあまあな私立の女子高の制服を身に纏い、ぽっかりと口を開けたまま私の顔を凝視する。私はというと兵ちゃんと再び邂逅出来た嬉しさに頬を緩ませた。
 ざわざわと近くに百年はここに立っているのであろう樹木が葉を揺らす。信号が青に変わり、私は未だに足が地面に張り付いたように突っ立っている彼女の元へ信号を渡り近付いた。信じられないようなものを見るかのように私へ視線を固定する兵ちゃんは、やっと思考が追いついたのだろう。ぎゅっ、と眉を下げ泣きそうな表情で呟いた。

「ごめんなさい……」
「……なんでそんなこと言うの?」

 私は驚いた。ああ、何故謝るの? 兵ちゃんは顔を隠すのかのように私に抱きつき呻くように訳を話した。

「これじゃあ、名前先輩と結婚も出来ない。子供も出来ない。女の子になんて、生まれなければ良かったのに」
「兵ちゃん……」

 私は降ろされたふわりとした茶色い髪を優しく撫でる。そんなことないのよ。だって、私は室町のあの時から兵ちゃんが女の子になれば良いとずぅっと望んでいたのだから。兵ちゃんは教師を目指していただけあって子供が好きだったけれど、私は大嫌いだった。よその子だったらまだ許せる。けど、私と兵ちゃんの間に生まれた子は憎い。嫌悪する。ただ血が繋がっているからって兵ちゃんに愛を注がれるなど考えただけで苛ついてしまう。
 前世のあの時は、兵ちゃんがどうしても欲しそうだったし家の事情で産むしか選択肢は無かったので産んだが、結局死ぬまで一度たりともお腹を痛めて産んだややこを愛することが、可愛がることが出来なかった。
 けれど、現在は違う。私も女で兵ちゃんも女の子。いくら身体を重ねても子供が出来る心配をしなくても良いのだ。ああ、これが幸福と言わずなんと言おうか。
 私はにこりと微笑んだ。大丈夫、子供なんか要らないと思えるくらいにたぁくさん、兵ちゃんを愛してあげるから心配しないでね。


12/07/30
前世でも想いは通じていた。
思いは通じなかったけれど。