春麗らかに消失


 はらりはらりと雪が散る。空を分厚く覆う雲を千切ったようにふわふわと柔らかそうな白は、見た目に反して触れると斬れるようだった。その白が、地面を己の色に染め上げ、寝間着のまま手を繋ぎ目的地へひたすら歩を進める私とユキちゃんの体温を奪っていく。
 ぶるりと身体が震えた。冷気が身体に貼りついているようだ。はぁ、と息を零すと、白色が空気に滲む。白ばかり。冬は白の季節だ。ゆっくりと色を変えて移りゆく季節を白に塗り替え、初めに戻す。そうして春になり、また様々な色を咲かせていくのである。
 私よりも一歩前にいるユキちゃんは無言だった。私の部屋にふらりと忍び込み「一つになりましょう」とそんな誘い文句以来、何一つ言葉を発していない。ただ、前を睨み付けて進むだけ。まるでこの雪が憎いかのように。ユキちゃんの小さな背中はしゃん、と伸びていた。
 やがて目的の場所へ辿り着いた。そこは春になれば色とりどりの花々が咲き誇る場所だった。薬草も多く、保健委員が足を運ぶことも多い。だから彼女はここを選んだのだろうか。
 足を止めたユキちゃんはまるで力を失ったように、睥睨することをやめてそっと目を伏せた。鳴呼、長くて天へ向く睫毛にふぁさりと粉雪が乗って綺麗。きぃいん。身体が冷え過ぎてそろそろ耳鳴りがしてきた。瞳を閉じてみれば瞼が温かい。

「ユキちゃん」
「なぁに、名前」
「身体が冷え切っちゃった」
「そうね。私も」
「暖めなくちゃね」
「……そうね」

 ひらり。どちらからともなく、繋いでた手を解いてお互いの身体に抱きつけば自然と雪のなかに倒れこんだ。身体は冷たい雪の上だしとても低い体温だけれど、密着すればやっぱり暖かくて心地良い。くすり、ユキちゃんが笑みを零した。私も笑う。
 しんしんと私たちに降り積もる雪たち。もっともっと降って、私たちを隠しておくれ。
 春に保健委員が私たちを見つけるまで。

13/02/27
凍眠。