夏の香りに揺れて


 コンクリートジャングルと言われるお洒落な都会とは違って、自然に囲まれたここはあちらよりは幾分か涼しいと思う。
 しかし、だからといって一切暑くないなんてことはなく、暑そうに眉を顰めながら縁側に立つ柱に寄り掛かりぱたぱたと団扇であおぎ己の方へ風を送る猪々子ちゃんを私は居間の畳に寝そべりながら眺めていた。

「本当、暑いわね」
「そうだね。ねぇ、猪々子ちゃんの行ってる学校はどのくらい暑いの?」
「ここより暑いのは確かよ。でもクーラーがあるから」

 猪々子ちゃんはこんなど田舎とは正反対に位置する都会の高校へ通っている。全寮制で、私の鳥頭じゃあ絶対に入れない結構な進学校らしい。今はお盆で寮は閉まっているから帰省しているけど、きっと本当はこんな何もないところより煌びやかな都会で華やかであろう友人達と遊びたかったんだろうなぁ。私の従妹はとても美人さんだから、きっと友人も美人さんだったり可愛かったりするんだろう。類は友を呼ぶ、みたいな。
 ちりんちりんと微風が吹くと鈴のような音を奏でる風鈴に耳を傾けながら私はそんなことを思った。猪々子ちゃんは柱から離れ私の顔を覗き込み、なに考えているの? と訊いてくる。ぱさりと猪々子ちゃんの緑がかった綺麗な髪が垂れ下がった。

「んー、猪々子ちゃんはこぉんな田舎に帰省するの嫌なのかなぁって」
「名前姉がいるのに帰省しないなんてあるわけないわ」
「あら嬉しい。お姉さん今きゅんってした」
「ふざけるのも大概にして」
「はいはい」

 軽く笑いしながら返事をすれば、全くもう、なんて呟きまた団扇をあおぐ猪々子ちゃん。こちらにも少し風が送られ額にはりついた汗が冷えて気持ちが良い。蚊取り線香の匂いも一緒に送られて、ああ夏だなぁと今更ながらに実感した。
 私はよいしょと身体を起こし、庭を見ている猪々子ちゃんにべたりと抱きついてみる。

「ちょっと、なにするのよ」
「良いじゃない良いじゃない」
「いやよ暑い」
「うふふー」

 先程の言葉は嬉しかったけどぎりぎりまで都会の高校に進学することを黙ってたことはやっぱり苛ついたので細やかなお返し、なんてね。

12/08/01
猪々子ちゃんは田舎の夏が似合う。