アイをみせて | ナノ
03:瞳に正規回答 [ 4/4 ]



じわりじわりと、心を焦がす。






   03:瞳に正規回答






結局図書室を出たのは昼休みが終わる予鈴がなってからだった。
それまで俺は机に伏したままで、時々そっともう一度手紙を見ては耐え切れずまた伏せるを繰り返した…真ちゃん以上の変人だ。
そんな原因の手紙はまた大事に片付けてファイルの中に戻った。
ただ午後の授業中も度々机を透視してはそこにあるか確認してしまって。
ああもうこれは、ヤバい。





「……高尾」
「、わ、なに真ちゃん?」
「終わったぞ」
「ああー、うん、終わったんだ。そっか、帰らなきゃな、うん」


部活中はなんとか大丈夫だった。集中力なくしてやっていけるほど秀徳バスケ部は甘くない。
いつも通り練習して真ちゃんとの恒例の居残り練習もやった。
ただ休憩と体育館の隅に座るとまた手紙のことを思い出して。あれだけ見たっていうのにまた見たい。
何度見てもあの愛あふれる感じが変わらなくて癖になりそう。癖に、なったかも。
また手紙が欲しいなぁ、なんて今まで思ったことないのに。
そんなことを考えていたか真ちゃんが自主練を終えてそばに来てたことにすら気づけなかった。


「どうかしたのか?」
「ん?なにが?」
「…今日の練習試合は調子がいつもより良さそうに見えた」
「どったの?真ちゃんが褒めるなんて」
「だが今は過去にないぐらい注意力散漫だ」
「うわ、上げて落とすわけ?真ちゃんツンデレ以外にも技身につけちゃった?」


そう笑ってエース様の肩に手を置けばいつもみたいに怒鳴られるかなーと思ったけど真ちゃんは呆れたようにため息をついただけだった。
いつもと違うその仕草に俺もどうしたものかなーと見返すぐらいしかできない。
とりあえずいつもみたいにヘラリと笑ってみせると真ちゃんは逆に表情を険しくした。


「誤魔化しきれなかったお前の前だ。吐け」
「……なんつー横暴なわけ」
「聞いてやる、と言ってるんだ。早くするのだよ」


…存外このエース様は優しい。
今日の昼休みのこともあったし気にしてくれてるんだろう。
そう思うとこの不器用な優しさがやっぱり嬉しくて。ギロっと見下ろされるそこにまた愛≠ェみえて嬉しくて。


「ラブレター、がさ。欲しくって…」
「今朝も貰っていただろう」
「そうなんだけど…その今日くれた子のが欲しくて」
「…好意を寄せてる女性からだったのか?」
「や、そういうわけじゃないんだけど……」


むしろ知らない人なんだけど…と答えながら自分の言ってることの最低さにまた気づく。
あれ、これっていつぞやと一緒じゃね?愛が欲しいからラブレターが欲しいって。
そう気づくと一気に心が冷め切っていくのがわかった。自分に、対して。


俺が一番嫌いな、俺。
視えるために、自分のために、愛≠利用する俺。
女の子が俺に寄せてくれるその好意を、利用すること。
緑間を始め部員がバスケに対する愛情を、利用すること。


嫌い、だ。どんなにみんなが俺に愛をくれたとしても、一生好きになれない俺の一部。
絶対見せたくなかったのに、思わず出てしまった。考える前に言葉になってしまった。
ヤバイヤバイヤバイ――――真ちゃんに嫌われる。

冷や汗が出てくるのを感じながら思わずうつむく。
けど、上から降ってきた言葉は意外なもので。


「良い恋文を書く人なのだな」
「……へ?」
「?知らない人だったのに嬉しくなるようなことが書いてあったんじゃないのか?」
「え、っと…まあ、うん。嬉しかった…?」
「なら返事を書けばいいだろう。何をそんなに悩んでいるのだよ?」


ポカン、としてると思う。そして真ちゃんも不思議そうにしてる。なんだ、この図。
でもなんていうか真ちゃんの言葉は俺にとって斬新だった。


「でも、でも知らない人だぜ?迷惑じゃ…」
「お前と相手が知り合いじゃないことなんて相手だってわかりきったことだろう。その上で恋文を渡してきたのだから返事をもらえたら嬉しいと思うが」
「そ、そう?」
「……俺にはお前がよくわからないのだよ。こういう人付き合いはお前の方が得意だろう」
「えー…でも……」
「それに普段だって誰にでも返事をしてるのだろう、手紙で」
「あれ真ちゃん、知ってたの?」



確かに俺はラブレターの返事は手紙でしてる。
それは礼儀でもあるし、直接言うとやっぱり俺も辛い部分があるから。

視れる愛は助かる。嬉しいより先に助かるがくる。たとえその想いに答えられなくても。
でも直接返事をするとなるとまた今度は言葉で伝えられるわけで、その時も愛が見えるわけで。
俺が断って、時には静かに、時には荒れながら、想いを断るとそこにあった愛が薄れるのも見えるわけで。
我侭だけどそれを見るのは、好きじゃなくて。
だからいつも手紙で返す。
ラブレターありがとう、想いには答えられないけど嬉しかった、って。

ただそれを真ちゃんが知ってることは意外だった。



「…これだけ傍でちょろちょろされたら気付くのだよ」
「ちょろちょろって酷い!」
「…俺はちゃんと返事をしてるのは良い事だと思っている」
「………」
「お前が恋文を欲しがるのはよくわからないがちゃんと対応してるのを知ってるから何も思わないのだよ」


そう、なんだ。
ほんと真ちゃん意外と俺のこと見てんだな。
俺がラブレター欲しい!なんて言ってるのを真ちゃんはよく思ってないんじゃないかって思ってた。
もともとそういう話が好きそうじゃないし?ラブレターを恋文って言っちゃうぐらい真面目っていうか誠実っていうか、まあ真ちゃんだし。
でもその表立った部分だけじゃなくてちゃんとそのあとのことも知ってくれてて、それも含めて評価してくれてる。
そういうところがちゃんと見えてる真ちゃんは、やっぱり凄い。
ワガママだし真面目すぎるぐらいだし柔軟性ない奴だけど、でも誤魔化してばかりでヘラヘラしてる俺なんかよりよっぽど真ちゃんは人としての魅力があるように思う。

そして今回もまたそんな真ちゃんに救われた気がする。
そっか。返事を書けばいいのか。迷惑じゃない、のか。そっかそっか。だって真ちゃんですら嬉しいと思うって言ってるんだし。

あーもう、だからエース様にはかなわない。


「っつーか真ちゃん恋文って!今時恋文って!」
「煩いのだよ!そんなこと言ってる暇があればさっさと返事を書くのだよ!」
「えー、真ちゃんせっかく相談のってくれたんだから返事も一緒に悩んでよ!恋文の!」
「煩い笑うな!それぐらい自分で考えろ!」


いつもみたいにからかってぎゃははって笑ってそのとなりを歩く。
そんな軽口を返しながら俺はまだ見ぬ川西満帆サンへの返事を考え始めた。



24.11.27

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