アイをみせて | ナノ
02.瞳は飽和状態 [ 3/4 ]




なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ――――
そこにあったのは、今まで知らなかったモノ




 02.瞳は飽和状態




カサっと音を立てて開いたそれ。
いただきます、なんて非常識で大変失礼な挨拶をしながら俺はそこに目を落とした瞬間。
なんだろう、なんかわかんねえけど。
身体を駆け巡るって言うか、息が止まるって言うか、初めて真ちゃんを見た時のような黒子を見た時のような、誠凛と試合した時のような。
母さんからの手紙を見た時のような、女の子からのラブレターをもらった時のような、視界を失った時のような。

それでいて全く違うような、そんな衝撃。


高尾和成様へ


そうありふれた手紙の始まり。
その女の子らしいけど丸字過ぎず、綺麗だけど硬すぎない、その文字は読みやすかった。
だけどそんな感想以上に駆け巡った快感に近いようなソレ。
思わずバッと紙を折り曲げる。


「な、なんだ、今の……」


どくどくと心臓が早い。
気持ち悪いぐらいの動揺に、本当動揺しかできなくて思わず声が出た。
なんだろう、こんなの初めてだ。
今までたくさん手紙を視てきたし、こう言っちゃなんだけど美味しく頂いてきたわけだけど。
こんな衝動は本当に初めてで、ただただ茫然とした。
どうしたものかと戸惑っていると、そこで聞こえたのはチャイム。


「―――とりあえず、戻るか」


時間切れだ、と自分を納得させてその手紙をもう一度封筒に戻してファイルに戻す。
妙にドキドキする心臓を抑えながら走って教室まで戻った。
走ったせいじゃなく息が乱れた俺を見て真ちゃんがお説教をかましたのは当然だったけど、それすら右から左状態だったのは言うまでもない。





 □ □ □



(なんだったんだ、アレ……くれたのは川西さん、だっけ?)


生憎手紙の中身は俺の名前しか見れなかったけど、封筒の裏にあった名前はばっちり。
覚えのない名前だったから違う学年かもしれない。っつってもさすがに俺も同じ学年全員把握してるわけじゃねえけど。
世界史の授業もこれまた右から左状態でそんなことばっかり考える。
ふと机を見下ろして、久しぶりに透視してみるとそこには変わらず封筒がある。

読みたい、けど、ここじゃなぁ…

さっきの衝動を思うとさすがに授業中に読む気にはならない。
どうしたもんかなぁ…なんか、すげー落ち着かない。
だけどあんまりそわそわしてるとセンセイも後ろにいるエース様も怒りだすだろう。

はぁ、とため息をついて昼休みまでこの手紙の件は無理やり置いておくことにした。





中々進まない時間に少しイライラしながらも4つの科目がようやく終わる。
これでメシ食って適当な場所で手紙を読もう、と思ってたんだけど。
想像以上に焦ってたって言うか、我慢できなかったって言うか。

「高尾……何か用事があるなら行って来い」
「え……?」
「今のお前とじゃ落ち着いて食えん」


まあばっちりエース様にはバレてた模様で。
俺は思わず苦笑しながらもその遠回しの優しさに甘えることにした。


「ごめんなー、真ちゃん。できるだけすぐ戻るから」
「構わん、お前がいない昼休みは静かでいいのだよ」


いつもと変わらないテンションでお弁当を開ける真ちゃんを見て少しさみしく思いながらも俺はファイル片手にもう一度ごめん、と言って教室を飛び出した。
そんな俺に複雑な目を向けてた真ちゃんに気付かないぐらいには、珍しく周りが見えてなかったみたいだ。



ただ昼休みになると人がどこにでもいて困る。
どうせなら落ち着いて読みたいと思ってたんだけどなー…しょうがないか。
そう思って俺は一度眼をつぶり、ゆっくりと目を開く。
視えるのは校舎全ての状況。
細かい人の顔まで見てたら本当力使い果たしちゃうから適度な感じでどこに人が集まってるか見る。
一番多いのは食堂で、次が購買、それぞれの教室にもうグランドにいる奴もいる、か。
どっかいいとこねーかな、ってぐるっと見渡すと……あった。


俺が普通に入れて、なおかつ人が少ない場所。
それがお昼休み解放されてる図書室。
その奥にある窓に向かって並んだカウンターみたいな読書スペースにいる人はほとんどいない。
いたとしても視線は本に向いてるから落ち着いて手紙が読めそうだ。


もう一度目を閉じて通常の視界に戻す。
空間把握はバスケコートではよくやるけどこんな規模でやったのは久しぶりだ。
少し目に疲労を感じたけど、少しすれば治るだろうと思ってその図書館に足を向ける。




さっき見たとおり図書室は人はまばら。
司書さんにかるーく頭下げて、奥のカウンターを目指す。
本棚の間には数人の生徒、カウンターにもちらっと見ると右端にひとりの女子生徒がいたけど俺は逆の左端に腰を下ろす。

ゆっくり息を吸って吐き出す。
試合前みたいに深い深呼吸を一回―――よし、大丈夫だ。

もう一度黄色い封筒から便箋を取り出す。
さっき駆け巡った衝撃を思い出しながらも今度は覚悟もしてるし大丈夫だろうと思いながら、開く手はやっぱり少し震えてた。


高尾和成様へ


さっきと同じ字をもう一度視界に入れる。
ドキドキとした想いは変わらなかったけどそれでもさっきより冷静に文字を拾えた。


初めまして、急にお手紙なんて書いてごめんなさい。
 私は高校二年C組の川西満帆です


綺麗な字で書かれたそこには彼女の名前と、丁寧な言葉が並んでいた。
そこにはバスケお疲れ様という慰労の言葉、時々練習や試合を見てることが綴られていた。


高尾くんがバスケをしてる時の目が、一番幸せそうで大好きです


どの文章からもたくさんの愛を感じた。
だけどその一文からは本当に溢れるような愛が込められていて、じわじわと染み込んでくるその愛がどんどん俺の目に吸収される。
バスケをしてる時の、目。

俺がこうやってラブレターを自ら欲するのはバスケのためだ。
秀徳バスケ部に入って、エース様の相棒をやってる俺は鷹の目の使用率が上がりまくって。
正直消耗が早すぎて愛が足りない。
本来はもっと加減して使うべきなんだけど、俺この子が書いてくれたみたいにバスケしてる時が一番幸せだから。

そんな俺が一番幸せな時の、しかも目が大好きだって書いてくれたことが嬉しい。
愛が溢れすぎててそこから本気の気持ちも伝わってくる。
今までだって愛がいっぱいの本気のラブレターもらったことがあったけど、こんなに惹かれたのは初めてで。


ああ、容量いっぱいだ。
これ以上愛を吸収できないと思って目を閉じる。
それでもドキドキは止まらなくて、思わず手紙を持ったまま机に伏す。


(なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ――――)




目で吸収できなかった分の愛が、どこに吸収されていくのかは知らなかったけど、ただただ心臓だけは煩かった。



12.11.22

*prev next♯
top
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -