アイをみせて | ナノ
01.瞳の中の真実 [ 2/4 ]

俺には、秘密がある。
それは俺にとって何よりも大切な物で、何よりも苦しい物。







 01.瞳の中の真実








朝学校に来て、一番最初に向かうのは下足ホールだ。
そこで一度上履きに履き替えてから部室に向かう。
この動作が面倒だって奴も多くて直接部室に向かう奴もいるみたいだけど、そういうとこしっかりしてる真ちゃんは必ず下足ホールから部室に行く。
それが俺にとって助かってるってことは知らないんだろうけど。


「あ、あった!」


扉つきの下足箱を開ける瞬間が一番緊張する。
それは真ちゃんがおは朝の占いを見る瞬間と似てるんだろうなぁ。
そして今日の俺はラッキー、一位を取った気分。そこにあったものを手にして思わず頬が緩む。


「……高尾、またか」
「ん?ああ、ごめんごめん」


呆れたような真ちゃんの視線に俺は笑って誤魔化す。
そして手にした封筒―――所詮ラブレターというものを鞄の中のファイルに挟む。


「お前は…ほんとに好きなんだな」
「えー、なにが?」
「いつも大事そうにしまうだろう」
「ははっ、よく見てんねー真ちゃん。俺より視えてんじゃね?」
「……人の気持ちを大事に扱うのは悪くないと思うのだよ」


くいっと眼鏡のブリッジをあげる真ちゃんが照れ隠しだってのは分かる。
でも珍しい真ちゃんのその褒め言葉は俺を苦笑させるしか無かった。


―――人の気持ちを、大事に扱うなんて、俺にはかけ離れてるよ






高尾和成がラブレターが好き、っていうのは有名な話だ。
なんせ俺が有名になるように公言しまくってるから。
有難いことに俺に好意を寄せてくれる女の子って言うのは中学の時から割と多い。
それなりに人間関係は幅広く持ってるつもりだし、女の子に優しくって言うのは信条だったりする。
別に紳士的ってわけじゃねえけど母さんがそうしなさいってよく言ってたし、妹ちゃんのことも大事にしてきてるからそれが当然って言うか。
そりゃ中には「こいつあわねぇなぁ〜」って女の子もいる。
でもそんな子でも俺に寄せてくれる好意は、いろんな意味で必要で。―――申し訳なさが勝つ。


まあともかくある程度、女の子にモテる、っていう自分を俺は大事にしてる。
その理由はこのラブレターにあるんだけど。


「高尾、行くぞ」
「はいはーい、んじゃ頑張りますか」


着替えをして体育館に向かう真ちゃんの後を追う。
俺が高校で出会ったエース様は本当自分勝手で我儘でおは朝信者の変人だけど、でもこうやってバスケに向かう真摯な姿が好きだ。
それは同じバスケプレーヤーとして尊敬してるところもあるし。
真ちゃんがバスケットボールを持って、ゴールを見る視線を視るが好きだ。

そこにある、熱い視線が、俺には必要だから。



だから今日も朝から真ちゃんのシュート練習を視る。
毎日変わらないフォームで毎日同じ思いでシュートを打つ真ちゃん。
そこにある気持ちを、視るのが幸せで、俺の罪悪感。






―――俺には、秘密がある。

それは例え相棒である緑間真太郎にも言えない、秘密だ。
この秘密を知ってるのは家族だけ。


朝練を切り上げて教室に戻って、俺はすぐに教室をまた出る。
朝礼までの10分間、俺は毎日教室を出て西館の4階に行く。
特別教室が並ぶそこに朝からくる奴はほぼいない。
その端っこの非常階段に座って、俺はファイルから手紙を取り出す。

ラブレターというそれは平均して週に一回ぐらいのペースで貰える。
時々週に3枚ぐらい貰える時もあれば3週間ぐらいは何もない時もある。
まあそれでも平均週一といえば多い方だろう。
今日のこれは10日ぶりぐらい。
薄い黄色の封筒を開けると、中からは薄いオレンジ色の少ししっかり目の紙が出てくる。



俺は、生まれつき目が良かった。

それはバスケで言う鷹の目。
あれは訓練したわけでもなんでもない、生まれつき俺が持っていたものだった。
誠凛にも同じような目を持つ人がいるって聞いたけど、あれは少しの才能を訓練で開花させたものだと思う。
その点俺はもともと持ち合わせたモノで、正直周りが認識してるよりその視える物がある。
黒子みたいな影が薄い奴を見つけるのなんて全く苦じゃない。そもそもあれが視えないのが不思議だと思うぐらいだ。
空間を把握するのも、得意だ。バスケに生かしてる。




それ以外―――

例えば視力的にいえば人間の範囲を超える視力がある。数キロ先も見ようと思えば見れる。
それから頑張れば一枚の壁ぐらいは透視も出来る。
他にも人の感情とか、想いとか、そういうのも見える。



――――なんて、非現実的なことは俺だって分かってる。






でも俺が生まれて視えてきた世界はソレだ。
嘘でも冗談でもなく、俺の目にはそういう力があった。

子どもの頃はもっとコントロールが利かなかったからいっぱい視えた。
隣の部屋で料理をする母親も、遠くからやってくる友達も。
もちろん良いものばかりじゃなかった。
特に人の感情は視えるのが辛い。文字とかで視えるわけじゃなくてオーラ?みたいなのが視えて、それを視てるとその気持ちが伝染する。
だから幼稚園の先生がむけてくれる優しい気持ちは俺を穏やかにさせたし、道を歩く苛立ったおっさんの気持ちは俺を気持ち悪くさせた。

そんな人には言えない、人とは違う俺の目を家族は理解してくれてて。
どうにかこうにかコントロールする力をつけながら俺は大きくなった。


つまり俺が人間関係が友好なのはこういうズルイとこを使ってるからって言うわけ。
だって眼の前の友達が今怒ってるのか、機嫌が良いのか、全部視える。
それに合わせてやってればそれなりに信頼も得られるし、嫌われてると分かればそれなりに距離を置くのがお互いのためだ。


そんな得なのか損なのかわからない俺の目だけど、もう一つやっかいなことがあった。
普通の人よりいろんな機能が付いてるからか、他の人より目に対してのケアが必要なんだ。
それは目薬をさすとかそういうことじゃない。
多分目が生きてるんだと思う。上手く言えないけどそれが一番しっくりくる。
だから目に特別栄養を与えないといけない。


それに初めて気づいたのは妹ちゃんが生まれた時だった。
母さんが入院して、父さんも母さんに付き添って。
当時まだ小さかった俺は一人で留守番をしたり、病室の端で座ってることが多かった。
誰だって妹弟が生まれる時は経験するであろう、孤独。
母さんと父さんの目が、お腹の中の妹ちゃんにしきりに向けられて――――俺は目が見えなくなった。


バチン、ってテレビが消えたみたいに。
眼の前の世界が真っ暗になる。
幼かった俺はそれはそれはパニックになって泣き叫んで大変なことになった、らしい。
正直俺はパニックになりすぎたことや幼かったこともあってはっきり記憶にはない。
ただあの真っ暗な世界は普段視えすぎる俺にとってあまりにも恐ろしく感じた。


それからいろんな試行錯誤をして、俺は愛≠視ないと目が見えなくなることを知った。


愛、と一口に言ってもいろいろある。
母さんや妹ちゃんがくれる俺への家族愛。
友達がむけてくれる友愛。
それに俺に向いてなくても愛を見れたらある程度は補える。


例えば―――真ちゃんがバスケに対する愛だとか。


緑色、というよりはエメラルドグリーンっていうの?
キラキラした緑色の、少し鋭いような愛があいつのバスケに対する愛の形。
ボールを持つ時、リングを見る時、視えるそれに俺は満たされるところがある。



でも一番は俺に向けられる愛が一番の栄養だ。
栄養なんて言ったら申し訳ないかもしれないけど、俺にとっても死活問題。
昔は母さんがむけてくれる、愛情だけで十分だった。
けど成長するにつれてそれじゃ足りなくなってきて。
そんな俺に母さんもいろいろ考えてくれて、愛がはっきり見えるように手紙にしてくれるようになった。


今日も一日よく頑張りました。頑張ってる和成が母さんは大好きよ


初めてもらった母さんからの手紙を見た時、俺は本当に満たされた気持ちでいっぱいになった。
いつも一生懸命制限してる目の力の総てが満たされて、なにも無理しなくていいような開放感。

それから母さんは度々俺に手紙をくれて、妹ちゃんも書いてくれるようになって。
だけど中学生にもなると俺も人並みに思春期みたいなのを迎えちゃってその愛を上手に受け取れなくなった。
それがすげー申し訳なくて辛かったけど、でもどうしても受け入れられなくて。
無性にイライラして視界がどんどん悪くなる中、貰ったのはラブレターだった。


初めてもらったラブレター。
それはほとんど喋ったこともないクラスメートからだったけど、すげー嬉しかった。
母親に初めて手紙をもらった時のような満足感。
何度も何度もそれを読んで、目は絶好調に戻って。
有難くって嬉しくて思わずその子にOKの返事を送った。


―――だけど、そこには俺からの愛は無かった。


結果俺は彼女からの愛を受け取るだけ受け取って、目に栄養だけ与えて、それだけで。
最低だって思った。自分が、死ぬほど嫌いになりそうだった。

それから俺は誰とも付き合ってない。
だけど愛が欲しい。愛が無いと見えなくなっちゃう。
告白される度に少しずつは満たされたけど、その曖昧な形じゃ追いつかない。


だから、最低だとは分かっていたけど。


「オレ、告白されるならラブレターが良いんだよなー」


想いに応えてあげるからじゃない、ときめくからじゃない。
―――視えていたいから。
俺はそんな邪な想いだけでその言葉を繰り返した。


真ちゃんは、俺がラブレターを大切にすることを、人の気持ちを大事にしてるって言った。
でも違う。本当はその逆だ。
ラブレターという人の気持ちを、俺は栄養として得ているだけ。



「最低だな」


もう何度自分に向けて言ったか分からないその言葉をまた口にしながら。
それでも心の中でいただきます≠ニ非常識な挨拶をして、そのオレンジ色の紙を開いた。




(だけどそこにあった、俺へ対する愛情は、今までとあまりに違って。そこにあった川西満帆という彼女の名前が眼から離れなくなった)




―――――――――――――
高尾誕生日企画に参加させて頂きました。
短編の予定が少し続いてしまうことに…
特殊なお話ですがよろしくお願いします。

彼にたくさんの愛が注がれますように!お誕生日おめでとう!


2012.11.21

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