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魔女がシアンを撒きにやってくる 4


ご飯でも、とは言っても各強豪校の部長同士。

何かテニスや部関連の話しでもするのか、と二人とも予想してここまで来た為、白石の本当に普通な言い分に何も言えなくなってしまった。

「お。ほんならこれにしよ。幸村くんベル押してくれへん?」

「あ、ああいいよ」

「待て白石。それはベルとは言わねえだろ」

「なんでやねん。ベルて書いてあるやん」

「ベルってのはもっとこう…」

「跡部…ツッコみたい気持ちは分からなくも無いけど空気読めよ」

またしても冷ややかな視線が飛ぶが、跡部本人は白石に向けたベルの説明に夢中なご様子で。

心底疲弊したような幸村の溜め息は、ああでもないこうでもないと盛り上がる二人の声に掻き消された。

「白石。君いつ向こうへ帰るんだい?そんなに長くはいないんだろう」

跡部とのベル合戦を中断して、一言「おん」と頷く。

「今日か明日には帰るで」

「今日か明日って…まさか決まっていないの?」

「おん。なんやうちの顧問がな、府中行ってお馬さん見たい言うから」

「「競馬か」」

すんなりと頷いた白石を、二人は信じられないようなものを見る目で凝視。

部活の全国大会で東京まで来て、まさかの競馬。

開いた口が塞がらないといった様子の二人を、当事者である筈の白石はきょとんとして見回して。

「やっぱし変わっとるよな。やけどオサムちゃんはそれありきで生活しとるから協力してやらなあかんねん」

「いやいやいや。教師だろ?給料あんじゃねえか」

「そうだよ…何も大会で来て競馬の為に滞在日数を延ばさなくても…」

「しゃあないやんけ。オサムちゃんが行きたい言うて金ちゃんも馬見たいて乗り気んなって。誰も反対せえへんねんもん」

「「どんな学校だ」」

「こんな学校やで」

またしてもぽかんとしてしまう関東二人。

((うちの校風とは毛色が違うとは重々承知していた筈だけれど、まさかここまでとは…))

二人の心情がぴたりと重なっている事などお構い無しで、ウェイトレスが運んできたチーズリゾットにスプーンを立てた白石は、どう見てもご機嫌で。

その様子を見ながらまたも脱力してしまった二人は顔を見合わせて、労うように一度頷き合った。

白石登場から15分足らず。
その短い間に何度こう脱力したんだろう。

若干遠い目になってきている幸村に気付いた跡部が、テーブルの下で幸村の足を軽く蹴った。

「痛。なんだい」

「お前だけ逃避なんて許すわけねえだろうが。しっかりツッコミの役割を果たしやがれ」

「ちょっと待った。俺がいつどうしてツッコミ役に回されたんだい」

「俺は普段あいつらにツッコミっぱなしで色々磨り減ってんだよ」

「それを言うなら俺だってそうだよ。うちはボケの人数が多すぎて手が足りないくらいなんだ」

「なんやツッコミ不足なん?うちから誰か派遣しよか」

「全力で遠慮する。四天からの派遣だなんてまたボケが増えるだけな気がするから」

心底嫌そうに首を振った幸村に「こっちん人は遠慮しいやなあ」なんて暢気な声が飛んで、跡部の疲れきった溜め息が落ちた。

「あ。二人とも食べてないんやろ。なんや先頂いてしまってすまん」

「気にしなくていい。跡部、先に選んで。因みにフルコースもデモも無いから。質問は一切禁止。はいどうぞ」

「おお…さすがやな、質問封じか…」

「こうでもしないと一品毎に聞いてくるだろうから」

「さすがにそれはねえよ。大衆向けってのは理解したからな。もう何が出ても驚きゃしね…」

得意げにメニューを開いた跡部だが、たった1ページ捲っただけでメニュー表を凝視しながら固まってしまって。

「ほらね」

呆れ声で跡部を顎でしゃくった幸村に、リゾットを食べるのを一時中断した白石が苦笑しながら同意した。


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