魔女がシアンを撒きにやってくる 3
「なんやどないしたん?」
「どうしたもこうしたも…相変わらず暢気なんだからなあ」
「てめえさっきの尋ね方はどういうこった。他にも言い様はあるだろうが」
「なんやそれ気にしとったんか。ああ言うんが一番手っ取り早いやんか、実際一発やったで」
「アーン?てことは何か、この店のスタッフに俺様達はそう見られてるとでも言いてえのか」
「見られとるから案内されたんやないんか?」
あっけらかんとすっぱり言い切る白石に悪気は欠片も無いようだが、跡部の空笑いと幸村の苦笑は深くなるばかり。
こうもはっきりと正面切って言われてしまうと反論するのも馬鹿らしくなってしまうというもので。
「まあいい。やっと揃ったんだ、白石も何か頼みなよ」
「お。おおきに幸村くん。なんや頼んだんか?」
「まだ。君を待っていたんだよ。ていうか俺一人じゃ跡部の面倒を見切れなくて」
「ちょっと待て幸村。面倒ってなんだ面倒って」
「言葉通りさ。次から次によくそんなに疑問が湧くな、ってくらいの質問責めで」
「あ、もしかして跡部くんファミレス初めてやった?」
「ファミレスってなんだ」
さも当然のように言い放った跡部に幸村は「やっぱりか」と嘆息、白石は目を丸くして「そんな奴ほんまにおるんや」と呆然。
二人で顔を見合わせて、前に座る跡部に聞こえないよう「言ったろう」「遅れてほんますまんかった」と囁きあって、テーブルの下で固い握手を交わした。
「跡部、お前が今いるのがファミリーレストラン。略してファミレスだよ」
「家族専用なら俺様達は入れないんじゃねえのか?」
「あんな、ファミリー言うてるけど専用ちゃうんやで。俺らみたいな学生もぎょおさん来るし、独身の人も来るで」
「ならなんでファミリーなんだ?紛らわしいじゃねえか」
「…幸村くんバトンタッチ」
「早いよ」
はあ、とひとつ溜め息を落として少し氷の溶けたアイスティを飲み込む。
「…えーと…確か主な想定客層がファミリー層だったからじゃないかな。もうこれで全国的に定着しているから今更なんだよ。ていうことでこの話はお終い」
パンッと手を叩いて締め括ってしまった幸村に、二人の部長から「強引」と声が飛んだが、幸村は軽く聞き流して白石にメニューを回した。
「で、集まったはいいけど何か目的でもあったのかい」
「飯言うたやん」
「え。まさか本当にそれだけだったの」
「ファミレス来て他になんやする事あるん?」
「おい白石…本っ当にそれだけの為に呼んだのかよ」
「やから飯屋来て飯食う以外に何すんねん。逆に聞きたいわ」
メニューから視線を外さないまま言ってのけた白石に、跡部も幸村もぽかんとするしかない。