魔女がシアンを撒きにやってくる 2
「10分もかかんねえってよ」
ぱたりと携帯を閉じた跡部は得意げな顔で堂々言い切った。
苦笑しながら頷いた幸村は、跡部と自分二人分のグラスを持ち席から立ち上がる。
「お前が行くと時間がかかるからついでに持ってくる。何にする?」
「アッサムセカンドフラッシュのミルクティ」
「紅茶花伝だね。大人しく待っていなよ」
笑顔でバッサリ却下した幸村がテーブルを離れ、残された跡部の「コウチャカデンなんてブランドがあるのか?」という呟きは誰にも聞き届けられなかった。
一人になった跡部はまた店内を見回すも、見たこと聞いたことのないものばかりで首を傾げてしまう。
どうしてシルバーが纏めて置かれるのか、
どうしてコースで出てこないのか、
どうしてベルじゃなくボタンなのか。
見るもの全てが疑問の固まりでつい考え込んでしまって、結果不審者と化している。
「はいお待たせ」
パッと目の前に置かれたグラスになみなみ注がれたミルクティ。
「早かったな」
「混んでいなかったからね。10分掛からないならそろそろかな?」
「だろうな。…なんだこれ」
一口煽っただけで口を離し眉を顰めた跡部は怪訝そうに幸村を見るが、本人はにこにこ笑いながら「紅茶花伝って言っただろう」と言うだけでそれ以上の説明はしなかった。
どれだけミルクと砂糖をぶち込んだんだ、という呟きすらもさらりとかわして、自分用に持ってきたグラスに手をつける。
また沈黙が降るが、それは勢いよく開いたとわかるドアの開閉音で終わった。
「すいません、派手な俺様泣きボクロと見た目優男のオーラヤバイ二人ん席どこですか?」
「…跡部。今の声…」
「随分な尋ね方してくれるじゃねえか…」
出入口方向から聞こえてきた声に、ひくっと引き攣り笑いをする跡部と困ったように笑う幸村。
二人の前にだんだんと近付いてくるウェイトレスの斜め後ろに、見知った顔が一人歩いてきた。
「遅なってすまんな、かんにん二人とも。あ、すんませんおおきに」
「いえ。ではごゆっくり」
笑顔で去っていくウェイトレスにまた丁寧に礼を重ねて、幸村の隣へ座ったのは大阪・四天宝寺部長の白石蔵ノ介。
あんな尋ね方をしたにも関わらず爽やかな笑顔で「昨日ぶり」と挨拶をする白石に、二人の肩からがっくりと力が抜けた。