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魔女がシアンを撒きにやってくる 7


「ははっ!跡部くん復活したやん。さすが立ち直り早いわ」

「案外子供好きなんじゃないかい」

「好きでも嫌いでもねえよ。おいガキ、もう走るんじゃねえぞ。次ぶっかけやがったら将来まともな職に就けないと思え。それが嫌なら国外追放だ」

「重くなってるじゃないか」

「アホか何子供脅しとんねん!」

「いい教訓になるだろ」

しれっと言い放つ跡部の言葉によって、さっきまで和みかけていた空気が白石と幸村の溜め息で掻き消えていく。

言われた男の子はやはり分かっていなくて、ただ首をかしげながら跡部を見上げているだけ。

「ま、こういうんも跡部くんらしいかもな」

「ある意味優しいよね」

「馬鹿かそんなんじゃねえよ。白石、さっさと連れて行け。風邪でも引かれたら後味悪い」

「ははっ、やっぱ優しいやんなあ?」

「天邪鬼なんじゃないかな?ふふ、人は見かけによらないって言うけどまさにだね」

「うるせえって言ってんだろ。お前が行かねえなら俺様直々に出向いて慰謝料とクリーニング代請求してやるぜ?」

「かんにんしたって。ほんなら行くで、おいで」

ぽんと肩を叩いた白石へ振り返った男の子は、いつの間にか完全に泣き止んでいて。

「ばいばいおにいちゃんたち!ごめんなさいっ」

言った言葉は謝罪以外の何ものでもないのに、その表情は明るい笑顔だった。

しっかり白石の手を握って歩き出した後姿を見送った後、盛大な溜め息と共に濡れた前髪を掻き上げて、一度だけ小さく舌打ちをした。

「飯どころじゃねえな。ベタベタして気色悪ぃ」

「オレンジだしな。大丈夫かい」

「大丈夫に見えるならテメエの目は節穴だな」

「だろうね。白石が戻ったら出ようか、冗談抜きで風邪引くよ。それにオレンジ臭い」

「テメ、言うに事欠いて臭いとはなんだ。不可抗力だろうが」

「見ていたんだから知ってるけどさ、何て言うのかな…うん、とにかくオレンジ臭いんだよ」

「香水だとでも思っとけ」

自棄になったように笑う跡部に、幸村もつられてまた笑い出す。

白石が来るまでの微妙な空気なんて、すっかり払拭されていた。

こうして濡れねずみ姿で笑っている跡部と、普段の作ったような笑顔じゃない幸村は普通の中学生にしか見えなくて。

「あはは、こんな姿を氷帝生が見たら卒倒するんじゃないかい?」

「ハッ、神の子が腹抱えて爆笑してる姿なんざ、立海連中が見たら目玉ひん剥くんじゃねえか?」

「お互い様って事か」

「そういうこった」

「ただいまーってどないしたん、なんやオモロい事でもあったんか?」

「「なんでもない」」

「なんや二人して。仲ええなあ」

笑っている理由を知らない筈の白石までつられてしまう。

最初で最後になるかもしれない突発的な集まりだったけれど、昨日より確実に近くなった部長三人の距離。

テーブルに零れたオレンジジュースと同じ色の空になるまで、この不思議なメンバーの食事会もといボーイズトークは終わることが無かった。



fin.


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