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抱き締めて。キスをして。あなたは心底幸せそうに微笑んでから俺に愛を囁く。
 
 
全部、全部、夢の中の話
 
 
 
 
「柔らかい毒」
 
 
 
 
 
「はいカットォー」
 
「………何だ急に」
 
先輩はあからさまに呆れ入った顔をしながら俺に尋ねた。少し伏せられた目がエロいなぁと思い、このキレイな面を快感に歪ませtゲフン、今はやめとこう。
 
「いや、このままじゃなんとなくバッドエンドなの見え見えじゃないっすか。もっとなんかこう、イチャエロなのをお嬢様方に提供したいじゃないっすか」
 
「なんの話だ!それで何故私がお前に乗られなきゃならんのだ!」
 
「ラブハプニング的な。偶然つまずいて偶然ぶつかって偶然もつれあって気付いたらこんな、みたいな」
 
「…思い切りお前が押し倒してのそのそ乗ってきたじゃないか」
 
「やだなー乙女フィルターかけて下さいよー」
 
「意味がわからん!降りろ!」
 
 
先輩は俺の下でじたばた暴れだす。しかしいくら先輩でも大の男に胸の上へ座られては流石に上手く逃れられない。悔しそうな呻き声をあげながら段々と動きが緩慢になってくる。
 
 
「無駄な抵抗はおよしよ滝さん」
 
「誰が滝さんだコラ」
 
「俺のこと好きって言ってくれたら降りてあげる」
 
「はぁ!?」
 
「ねぇ、好きって言って」
 
「バカか!いきなりこんな真似するやつ好きなわけないだろう、退け!」
 
 
先輩は絶対あの夢みたいに俺に愛を囁いてくれたりしない。ハグはおろか手も繋がせてくれない。まぁそれは至極当然のことであって、俺達は付き合ってすらいないし。先輩は、俺の愛を受け入れてくれない。週にいっぺんくらいは下のエロい口で俺のビッグマグナムを受け入れてはくれるんd話が逸れた。
 
 
「先輩にとって俺って何すか。都合のいい肉棒っすか」
 
「ちょっ…私がただの淫乱みたいな言い方するな」
 
「事実淫乱じゃないすか。俺の上でがんがん腰振ってヨダレ垂らしながら5回もイッてたの誰でしたっけ」
 
「4回だ!バカ!!」
 
顔を真っ赤にしながら訂正してくるけどそこあんま大事じゃないよ先輩。
 
 
俺は知っている。自分が本当にただの都合の良い性欲処理相手でしかないことを。先輩がいつも、俺に抱かれながら俺を見ていないことを。その瞼の裏に、違う人を映していることを。
 
「…バカはあんたの方だよ、先輩」
 
 
どうせ俺が本気であんたを好きなこととか考えてないんだろ。何でもない会話や仕草に一々女子高生みたいにときめいてることとか知らないだろ。あんたが寝言であの人の名前呼んでんの聞いたときの俺の気持ちとか想像つかねーだろ。
 
それでもあんたのイき顔を他の野郎に見せるくらいなら、心の引っ掻き傷くらい、いくらでも我慢するさ。
 
 
「…三之助?」
 
あんたの隙間に俺が入れる可能性ってどれくらいかなぁとか考えると本当泣きたくなるけど。
 
「………なんでもないよ、そう言えば今日飯どうする?家で食ってく?」
 
「おぉ、そうだな。今回は私が作ろう。何がいい?」
 
「ハンバーグ食いたい」
 
「…材料はあるんだろうな」
 
「なんもねぇ。てか冷蔵庫カラだし、買い出しデートしようよ」
 
「はぁ〜?本当に何もないのか?」
 
「ないよ、ほら行こう。ご近所さんに噂されちゃうくらい手繋いで仲良しで行こう」
 
「なに阿呆なこと言ってるんだお前は…」
 
 
 
一番辛いのは、あんたの幸せを願えない俺の小ささだ。

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