晴天下エクメネ
まだ二人が付き合う前
告白シーンver.2
食満の記憶がまだ現世に戻らない。もちろん文次も。文次郎に対しての食満の白々しい態度。食満が色んな違う彼女を持ち始めてからの話。部室でその事でやれ「甘えてる」だの「責任がない」だの言い合って、喧嘩になる。
文次郎の「お前なんて嫌いだ」という言葉に、食満が返した言葉。
***************
俺がいけないんだ。
俺が、こんな奴の事なんか気にするから。
その
目に
腹立つんだ
「俺のこと嫌いなわけないだろ」
そう言いながら食満は俺の手に指を絡めてきた。
「俺が嫌いじゃねえもん。」
指が絡まり、爪を擦られ、くすぐったくて少し身を引いた。
「、どうゆー建前だよ」
下から睨む。
「俺達、似てるだろ…」
言葉を呑み込み、俺を壁に押し当てて、整った顔を近づけてきた。
―似てるだろ。、?
気持ち悪い。似てるもんか。俺のどこを見てそんな事を抜かすんだ?
「止めろ、」
食満の吐息が僅かに空いた唇から漏れてくる。
あと少しでくっつきそうな所、俺はそれを阻止した。
「離れろ!」
食満の胸を突き、吃驚して固まったその瞬間を狙って暗く籠った部室から逃げ出した。
《実際付き合った子達から聞いたんだけど。五組の食満君格好良いけどさ、皆、付き合って数日後にはフラれちゃうらしいよ》
《捨てられて皆、泣いてた》
《泣いてた泣いてた。》
捨てられてたまるか…!
扉を体当たりするようにして校庭へ出ると、グラウンドが悲しいぐらい精々していて、空が青くて広かった。
「文次!」
一足遅くに食満が俺を呼び止めた。
俺は嫌味を込めて、低く落ち着いた口調で悪態を吐く。
「カノジョを取っ替え引っ替えすんのがそんな楽しいか、」
「違う」
「今までのは皆、お前から逃げる為だ」
お前が。文次が好きで。他の女子と付き合った。そうすれば、忘れられるなんて馬鹿みたく思った。俺がお前だけである理由が、自分でも解らなかった。
「…………。」
「俺はお前が好」
傷つきたくない!
「嘘つけっ!」
「嘘じゃねーよ!」
痛く
しないで!
「そうやって今までのカノジョも騙してきたんだろ」
「ちげぇってホントに俺はお前を…」
「しつこいぞ!」
「!…」
正直告白して『しつこい』はキツい。
「俺はお前の気晴らし道具になる気はねぇっ、自分のやってきたこと反省しやがれ馬鹿垂れ!」
「なんだと!お前、考えてもみろ、今まで俺が付き合ってきた女子皆可愛かっただろ!その中にお前がいるんだ、おかしいと思わないのか!?」
「…それはどういう意味だ」
「不細工って意味だろ、!」
ポロッ
(あ…)
「…………」
風の唸る音がする
自惚れていた。
呆れかえった気持ちのどこかで、選ばれたことに自惚れていたのだ。
「潮江…」
別に悔しいわけでもなく、腹が立ったわけでもなく、悲しくて泣くのでもなく。
「…お前は」
生理的に泣くのだ。これから受ける痛みを、和らげるために、包み込むように。
「お前は、俺、じゃないのか?…」
屈み込んで潮江の顔を伺う。真っ赤になってふるふると震えていて、叱られる子供のようにぐっとしかめて泣いていた。
(ずっと!ずっとずっとずっとお前だったよ!そしたら、お前が!他の奴だったんじゃないか!)
俺達は喧嘩ばかりしていた。
(だぁいすきだったのにっ)
いつもいがみ合って、張り合っていた。
(伝えようとしたのに)
言葉の根っこが喉を締め付けて、口に出せない。
胸が変に苦しい。つっかえて、不安で、怖い。
「…っ、おれ゛は、お前゛がっ゛、きらいだぁ!っ」
文次郎は、吃り吃りにつっかえながら、精一杯の反抗をした。
「…」
食満は苦笑いで屈んでいた身体を起こした。
(…説得力に欠けるんだよなぁ)
真ん中で分けた髪から出た潮江の額に、唇を落とす。
次に見たのは、きょとんとした文次郎の顔だった。
驚いたのか涙が止まっている。
「じゃあ待つ。」
食満はジャージ姿の文次郎の肩を両手で確かめる。
「お前が、俺のこと好きになるか、このまま大嫌いになるか待つ。そしたら、いいもんな、付き合うわけでもなく、別れることもねぇし。」
「はぁ?お前…」
「好きだからな、文次。」
「…っ、」
「俺はお前が好きだ。忘れんなよ、好きだ。」
「…、…………、…」
文次郎は何か言いたげに口をパクパクさせたが、
すぐにそれをつぐんで食満の目を見た。
鋭いその目線が好きだよ、俺は。
食満。
後に、校庭から二つの影が共にそこを離れる。
赤い夕焼けが
それを知っていた。
***************
爪っていいよね
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[mokuji]
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