喜+池A

 
「あれぇ、先輩…髪濡れてますよ」
 
傘さしてるのにどうして、と近寄ってきて薄い大きな手で俺の髪を触った。
 
「あー、朝風呂入ってきたんだ…そのうち乾くと思ったけど、やっぱこの湿気じゃ無理だったな…」
 
こいつの手が耳や頬を少し擦るたびに、なんだか猫になったような気分になった。温かくて乾いた手が気持ち良くて、さっきから若干眠くて思考が変っていうのもあるけど、無性に擦り付きたくなった。まぁ、そんなことしないけど。俺が目を細めて奴の手を受け入れていると、次の瞬間には鼻先に奴の鎖骨があった。
 
 
「…?」
 
つい手が緩んで、持っていた傘を落としてしまった。あ、と声が出た、けど、それよりも奴の腕が両肩に乗っているのに気付いて、
 
「…あー…先輩の髪ってぇ……」
 
奴の吐息混じりの声が、耳元で聞こえた。
 
 
「…烏の濡れ羽色なんですねぇ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「………何それ」
 
男相手に動揺している自分に疑問を抱きながら見上げれば、奴の優しげな笑みが、すぐ近くに見えて、余計に動揺した。
 
「烏の羽は、とても濃い黒なんです。水に濡れたりすると、緑色のツヤが出来るんですよ」
 
そう言いながら手を俺の頬に滑らせてくる。自分でも顔が赤くなっていることがわかった。何なんだ急に。触んじゃねーし。脈絡ねーし。わけわかんねーし。でも俺はその手を振り払えないでいる。それに、なんでかこいつ、いい匂いがする。
 
 
「とっても綺麗です」
 
くっと頭を寄せられて、額に奴の唇が触れた。その瞬間俺の羞恥は爆発して奴の胸を腕で勢い良く押し退けた。
 
 
「ば、ば、バッカじゃねーの!!?何なんだよお前っ…!!!」
 
なんかもう頭ん中わけわかんなくなって、自分の目があっちこっち泳いでるのがわかって、取り敢えず真っ赤になってるであろう顔を見られたくなくて、もう知らんと言って学校の方へ早歩きで逃げた。
 
 
「あ、待って下さいよ〜三郎次先ぱぁ〜い!」
 
そう言ってあいつも小走りで近寄ってくるのがわかった。
 
 
 
 
 
…なんであいつ俺の名前知ってんだ?
 
 
 
「あ、雨止んでますねぇ」
 
 
 
 
 

オチなんてそんなサービスうちにはない(^^)
喜三太は三郎次が昔からの三郎次であることを知っていて、昔いじめられた仕返し〜的な感じでからかっているんだよホントは。伝わらないけどね!!!!

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