喜+池@

・アミダCP
 




今日も雨。昨日も雨。一昨日もその前も雨。きっと明日も雨。明後日も雨。なんでそんな降るんだよバカじゃねーの。いい加減鬱陶しいんだよ。いくら文句を言ってもこの鬱蒼とした曇を携えた梅雨は退陣してなんかくれない。歩みも自然と怠さを増す。
 
「…ふぁ〜ぁ……」
 
大きな欠伸をして携帯の時計を見た。この時間だと、学校に着くのは3時間目の初めくらい。高校になってから雨の日に遅刻する癖がついた。雨が降ると、どうにもやる気が失せる。薄暗いし、傘持たなきゃならないし、濡れるし、染みるし、蒸すし、何もいいことない。
ついでにあいつもいる。
 
 
 
「…あ、せんぱぁ〜い、お早うございます〜♪」
 
 
雨の日に必ず通学路で会うこいつ。道の脇にある紫陽花の株の根元にしゃがみ込んでヘラヘラ笑いながらヒラヒラ手を振ってくる。俺はこいつが、よくわからん。毎度対処に困る。
 
「…またナメクジ見てんのか」
 
「今日は新しい子と出会えたんですよ〜この子、この右から2番目のナメ三郎!!」
 
「見分けつかねーよ…」
 
一学年下の、名前は知らない。初めて会ったとき、あいつは名乗らなかったし、俺も名乗らなかった。名乗る必要が無い気がした。それは現代の一期一会的思考の殺伐とした人間社会とかそんなんじゃない。初めて話し掛けられたときに確かにあった、羽虫が触れたか触れないか程度の僅かな違和感。昔からの知り合いに声をかけられたような、自然な空気。自然過ぎて不自然なくらい、俺達は普通に話していた。
 
「先輩また遅刻ですか〜?」
 
「お前もだろうが」
 
「えへへ…だってナメさん達を放って学校になんか行けませんよ」
 
「そうかよ…」
 
 
 
呆れながらも、一緒になってナメクジを見てる自分が何なのかわからなかった。
俺と違ってヒョロりと細く伸びた四肢を限界まで折り畳んでしゃがみ込み、世間体なんかとっくにごみ箱へ棄てましたと言わんばかりにナメクジとの対話に勤しむこいつを放っておくことなんざ動作も無い。ただ一度止めてしまった足をまた動かすのに、この天気は怠過ぎる。そう、天気のせいだ。ならそもそも足を止めるなって話なんだが、警戒心の欠片もなく柔々な態度と喋り方で接してくる奴を無視して行くのは、少し心が咎める。俺は優しい人間なんだよ。
 
 
「じゃあねぇ、また明日ねぇ」
 
茂みの奥へと帰るナメクジ達に手を振ってから立ち上がったそいつは俺と頭一つ分くらい違う。俺が小さいんじゃない。奴が規格外にでかいんだ。奴はいつも柔らかい眼差しで俺を見る。
 


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