現パロ皆川A

 
「でも…兄弟がいるっていいですね、僕一人っ子だから羨ましいです」
 
「おぅ、好きなだけ持っていっていいぞ、俺はもう懲り懲りだ」
 
「ははっマジすか」
 
兄弟姉妹のいる人にこういう話をすると大抵こちらを羨ましがられたり、兄弟がいるゆえの不便さを語られる。だが一人っ子というのは、それほどいいものではない。愛情や金を僕だけに注がれる分、同じだけの期待もかけられる。僕はそれを一身に背負い、応えなければならない。肉親からの重たい圧力を抱え、失望させまいと努力するのは辛い。自分のためではなく、親のために努めるということの、なんと虚しいことか。だが、それよりも僕は、人と一緒にいる方が好きな僕としては、一人という寂しさに耐えられなかった。
 
「…寂しいもんですよ、一人は」
 
「……………」
 
「僕も先輩ん家に生まれたかったなー…なんて……」
 
「…ふざけんな、これ以上増えたら手に負えねぇ」
 
「あはは、酷いなぁ」
 
ほらよ、と言って先輩が手を離した。肘には綺麗にガーゼがテープで貼ってあって、上からネットを掛けられていた。絆創膏でよかったのに。僕はお礼を言って袖を直した。
 
「じゃあ、僕はこれで…お手数かけてすいませんでした。勉強頑張って下さい」
 
先輩はふん、と鼻を鳴らし、そっぽを向いて消毒液を片付け始めた。可愛げの無い人だ……ん?男の先輩に可愛げを求めてどうする。何考えてるんだ、僕は。頭を軽く振ってドアに手を掛けた。
 
 
「おい」
 
開けようとしたら、突っ張った声で呼び止められた。振り返ったが、先輩は戸棚の方を向いていて後ろ姿しか見えない。だが、髪から少し覗く耳が、赤く染まっているのが見えた。
 
 

「…こ、ここにいる間だけだったら…お前も弟にしてやる…よ…」
 
 







そう言ってまたガチャガチャと、さっきより荒い手付きで片付け始めた。先輩の耳はもう真っ赤になっていて、僕はなんだか嬉しいんだか恥ずかしいんだかわからない状態で、何て返したらいいかもわからなくて。
 
 
 




「………もう暫くここにいてもいいですか?」
 
 
「帰れっ!!!」
 
 

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