現パロ長→こへ@

 
小平太が孕んだ。何故かはわからない。生物学上、不可能なことなのに、事実小平太の下腹部は膨らんでいて、中には命が宿っている。レントゲンを撮って見ると、普通の妊婦のものと変わり無いと医者は言った。つまり奴には普通男に無いはずの子宮が存在し、何かしらの理由があって孕むこととなった。しかし奴には膣が無く、子宮の出口は途中で肉に埋もれて消滅している。入り口も無いのにどうして孕んだのか。この子供はどうやって出るつもりなのか。不思議を超越して有り得ない人体構造。なのに本人はたいして驚くでもなく、嘆くでもなく、嬉々としていた。
 
「長次、身籠ったぞ!私の子だ、どんな子だと思う?どんな子に育つだろうな、なぁ、長次!」
 
なんて言って目を輝かせながら私に報告してきたときは、最初、奴の彼女の話だと思った。結婚もまだなのに何をやっているんだ、そもそもいつの間にそんな間柄の女ができたんだ、と問い詰めようとしたら、まだ膨らみの目立たない下腹部を愛しそうに撫でながら、名前を考えなきゃなぁ、なんて、凄く幸せそうな顔で言った。その顔を見た瞬間、小平太が孕んだのだという事実と、何故か泣きたくなるような絶望を感じた。奴が今感じている幸せが、長くは続かない儚いもののように見えて、巣の卵をプラスチックの卵とすり替えられたのに気付かず温め続ける親鳥を見ているような、哀しい気持ちになった。私のこの例えは、のちに然程違わない事実となって小平太を苛むことになる。
 
小平太は腹の膨らみを見るたびに満面の笑みを浮かべていた。一々私のところにやってきては昨日より大きくなっただの元気に中で動いてるだの報告してきた。私はこの頃、小平太があんまりにも幸せそうなので、あのとき感じたものはただの杞憂だったかと安堵していた。私は小平太の夫にでもなったかのような気持ちで、無理はするな、とはしゃぐ奴を宥めた。
そんな日が暫く続いた。
 
ある日、いつものように私の部屋を訪れた小平太は、少し表情が曇っているように見えた。
 
「…どうした、今日は定期健診の日だったんだろう?」
 
小平太はびくっと体を震わせて私の方を見、苦笑いを浮かべて俯いた。私は嫌な焦りを感じた。
 
「…何か言われたのか?」
 
小平太の隣に座って訊いてみると、覇気のない擦れた声が返ってきた。
 
 
「……どちらかが、死ぬと言われた。私か子供…どちらかしか…助からないと言われた…」
 
 
 
残酷な現実だった。小平太の妊娠は特異中の特異で、体への負担も通常より酷く、出産と同時に命を落とす可能性が極めて高いと医師は診断した。もし子供を諦めるなら、早くにでも堕胎した方が良いという状況に置かれていた。小平太は拳を握り締めながら、声を詰まらせていた。
 
「…私は哀しい…生まれた我が子を抱き締められないことが…一人にしてしまうことが…成長を見届けられないことが…哀しい…哀しいよ…」
 
小平太は自分の死を微塵も哀しんでいなかった。子供の未来を、子供のことだけを考えていた。小平太は私の手を掴んで、両手で握って言った。
 
「頼む長次…一生のお願いだ…私の代わりに…この子を頼む…お前にしか頼めない、お願いだ長次!」
 
最後は泣きながら頼んでいた。私も泣いていた。私は小平太の死を想って泣いていた。私は子供を堕ろしてでも小平太に生きて欲しかった。小平太、最愛の人に同じ頼みをされたら、お前はどうする?

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