成長伏→雑@

「…もう一度言ってごらん」
 
そう言葉を紡ぐ彼から放たれる眼光がより鋭利なものとなる。周りの空気も、より冷たく居心地の悪いものとなる。僕はそれを全身で感じ、身震いをしたあと更に彼を挑発する文句を言う。もっと、僕を本気で殺したくなるように。
 
「城の組頭のくせに、聞き取れなかったんですか〜?よくそんなので勤まりますね〜」
 
怒れ、もっと、僕なんか一瞬で殺せるくらい、怒れ。そう思いながら言葉を選ぶ。思いながら、一瞬で殺されたら詰まらないな、と思った。しかしこんな安い挑発では彼を本気にさせられない。案の定、事は悪化しなかった。彼は同じように静かな声で言う。
 
「できれば冗談であって欲しい言葉が聞こえたからね…悪いが、もう一度言ってくれるかい」
 
彼はきっともう僕の言ったことが真実だと気付いている。ただ動機がわからないから、次に僕が放つ言葉と、ほんの少しの仕草なんかでそれを探ろうとしているんだ。嫌な大人。だから好き。でも、思い通りにはなってあげない。素直な子は、好みじゃないでしょう?
 
満面の笑みで言ってあげる。
 
 
「諸泉さんを半殺しにしたのは、僕です」
 
 
 
 
 
予想通り彼は、恐らく彼の全力で僕を殺しにきた。僕は致命傷になりそうな攻撃だけはなんとか紙一重で躱して、あとは然程考えずに当たったり避けたりした。早く、僕を殺して下さいよ。でも、この時間が終わるのは嫌だなぁ。あなたが僕だけを、本当に僕だけを見ててくれる時間だもの。簡単に終わらせるなんて惜しいなぁ。
 
「がっ…は…っ…!!!」
 
そんなことを考えていたら後ろから忍刀で刺された。左腹部。いい感じに貫通していて、外に出た刃先は僕の血で光っていた。嗚呼、美しいな。膝から崩れ落ちた僕をひっくり返して腹の上へ馬乗りにされる。引き抜いた刀を首元に当てて、彼は静止した。こんな状態でも、官能的な体位だな、なんて思う僕は変態なんだろうな。
今更だけど。
 
「は…やく…刀を…振って下さいよ……」
 
上手く腹に力が入らなくて喋れない。早く殺して欲しい。僕が、ずっと、ずっと、待ち望んでいた瞬間がもう目前にある。興奮で身体が熱い。いや、もう意識がいかれてるだけかな。
 
「…何故こんなことをした」
 
彼の声はやはり静かだった。息切れもせず、怒りに震えることもなく、ただ淡々としていた。しかし、彼の目が揺れていたのを、僕は見逃さなかった。そんなに、あの若造が大切だったんですか。

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