行かないで最終話1

翌日

その日はやけに暑かったので、何度額を腕で拭ったか知れない程だった。恨みを込めて空を仰ぐ。



(嫌味な晴天だ)



まったく。暑いし、あいつの居ない部活なんて、締まりが無くてつまんねえよ。
心のなかでそう呟きながらグラウンドに向かっていると、遠くの方から自分を呼ぶ声がした。
馴染みのある声にふと振り向く。



「…仙蔵。伊作、」



「元気か食満」



「ああ、お陰様でな」



ひねくれた調子で返す。ちっとも元気ではない。



「まあそう気を悪くするな。私達が悪かった」



「…は?」



「うん。君達に其々、間違ったアドバイスを送ってしまったんだよ」




「…何の話だ?」




訝しげな食満に二人は事情を説明した。
文次郎の相談の話を聞くと、彼は心から驚いた様だった。



(俺からのリードをずっと待ってた…?あいつが?)


そんな事予想もしてなかった。そうか。俺達は結局、ただすれ違っていただけだったのか。


急に開けた視界に急いたように身体が動く。



「あ…おい食満!」



二人の話を最後まで聞かずに、導かれるように文次郎の自宅へ向かう。





「人の話は最後まで聞け!私達だけでなく、お前等だって悪いんだからな…」





仙蔵の声は校庭中に響いたが、振り返ったのは食満ではなく校庭に居た生徒2、3人だけだった。

精々した蒼空がいっそ虚しい。





゜.・。:+.゜.・。..゜.・。.+゜・。:+




本人に合ったところで、どうしようというのか。

謝ろうか怒ろうか。
素直に嬉しいと喜ぼうか。

…又帰れと言われたら?


はたと古い民家の前で足が止まる。

文次郎の家だ。しかし、今まで自分の家の様に出入りしていたその家が、今はまるで大きな壁のように感じる。

今さら引き下がってたまるかと扉を叩くが、返事がない。文次郎は先に帰ってる筈なので戸口に手を掛けると、玄関が開いた。

人影はなく、がらりとした家中に重い静寂が漂っている。二階の文次朗の部屋に向かいドアをノックする。


「…文次朗、俺だ」



「…。」



返事が無いので、寝ているか無人なのだろうかと思いドアを開ける。



(部屋にまで鍵をしないなんて、不用心だ)



部屋は締め切られむっとした暑さが立ち込める。

カーテンも締め切っていたので部屋は暗く、白黒テレビで番組を見ているときのようなグレースケールに視界が覆われる。

電気のスイッチを探そうとすると、



「帰れ」



とベッドから声がした。

驚いた拍子にスイッチを入れる。そのまま声のした方を見ると、潮江文次朗がベッドの上で腹を抱えうつ伏せに踞っていた。
汗で髪の毛が頬にくっついている。



「何しに来た」



冷静さを装う問いに、



「そっちこそ何してんだ?」


と問い返す。

文次朗は少しぐっと口を閉ざしてから、「腹が痛いんだ。分かったら帰れ」と余裕の無い声を吐き出した。
息を吸う度に文次郎の制服が柔らかく膨らむ。

食満は黙ったまま彼女を見下ろした。



(こいつが帰れと言うときは、)



三週間前の光景が脳裏に蘇る。
後ろ姿で涙を隠す文次郎。思わず触れられなかった右手に力が籠る。



(―何かを隠したがってる時だ。)



食満が帰る様子もなく、ずかずかと自身に歩み寄るので、文次朗は反射的に上体だけ起こした。

それを良いことに食満は起きた上体を掴み文次郎の身体をぐるりと仰向けにさせる。



「―なっ、止めろ!」

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