ファブって文次郎

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文次郎が廊下を歩く。




体育実技の後。




それを捕まえ食満が人気の無い廊下に彼を連れ込み、壁へ押し付ける。

頬をそっと寄せると、くすぐったかったのか、照れているのか、身を捩る文次。



しかし、手首を押さえつけられ動けないようにされているので、首だけが横に向いた状態になる。




項の下にすっと通る張り詰めた首筋。




そこに唇を寄せ、そっと口付ける。




「…!」




柔らかい唇が肌に触れ、文次郎が肩をすくませ拒む。



そこで食満はさらに身体を押し付け、彼の肩に顔を埋めた。




「おい、…っ」




溜め息混じりに文句を溢す文次。




ぐりぐりと文次郎の肩に顔を押し付ける。




少し間を開け、はあ、とこちらも熱い溜め息を溢す。



「…汗臭ぇな」




恍惚の顔を浮かべながら食満はぼやく。




実習だったんだ、仕方ないだろうと文次郎。




「あ」




突然の後ろから声に、二人は跳ねたように振り向く。



伊作が廊下で屯する二人を呆然と見下ろしていた。



慌てて言い訳する文次郎。
「ちっ、違うぞ善法寺。これはええと、たっ鍛練だ!」




何の?という文字が伊作の顔に浮かぶ。




食満を突き放し、取り乱したように服装を直す。




食満はまだ物足りなさそうに文次郎を見ていた。




それに反し文次郎があっちへ行け、と目配せするので、食満はむっとし伊作を睨む。




良いところに邪魔しやがって、と恨みを込めて。
それに気付いた伊作。




「あっ…とと。…お邪魔だったかな」




愛想笑いを浮かべ、同室の友の為に来た道をすごすごと引き返す。




「なっ、ちがっ…」




文次郎の低い声が後から、待て、伊作、誤解だ、等と追いかけてくるが、彼自身は来ないとすると、恐らく再び食満に捕まったのだろう。




廊下の角を曲がり、少し振り返る。




角とあっては何も見えないのは解っている。




ただ、角の向こう側の汗のにおいに、思いを巡らせ、その場を去った。




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食満の「汗臭い」って良いなと思って。

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