鳥居輪廻回想情事下

※心中エンド注意



食文












城の前ではすでに敵方の勝利が唄われ、旗を掲げ最後の追い込みがかけられようとしていた。

食満は、城へ潜伏したままでいる文次郎が気掛かりで、逢い引き場所である城の横扉を何度も目で往復する。

数時間して、向けられた矛先を避けつつ間合いをつけていると、その場所に人影を目にした。

遠くからではっきりとわからないが、見覚えのある風貌に心が反応する。

(文次郎だ。)

腹を押さえぎこちなくしている為、負傷していると勘づいたので、慌ててその場をしのぎ、戦を抜け出す。

走って向かう先は、恋仲の元。





しかし。





「…………っ文次郎!





変わり果てた恋人は紅く染まり最早肌の色の無い体を抱えていた。

蒼白い顔で文次郎は突っ立っている。

彼は腹から顎にかけて、胸、喉がぱっくりと裂けており、食満は、気が動転し目が回った。

声をかけられ文次郎がゆっくりと頭を振り食満を探す。やがて目が食満を見つける。



「…食満、」



小さく呟くその後は、掻き斬られた喉から息がひゅうとだけ鳴っただけだった。


文次郎は、隈の深い目を、柔く、閉ざす。



目の前の倒れる身体を、食満は受け止められずに見ていた。


、どすりと重いものが、食満の心に落ちる。





食満。





俺は、死ぬ。





今度生まれ変わっても、





俺を思ってくれよな。





多分、きっと又、俺は、





お前を―





文次郎!死ぬのか、駄目だ、文次郎!文次郎、…」



煌々と止めどなく流れる血を、何とか止めようと文次郎の身体を締め付ける。

傷が塞がるよう抱き締めるが、文次郎はぐったりと人形の様に項垂れる。




死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、文次郎。



つんと鉄に混じる血の臭いと、文次郎のまだ温い体温を腕に感じる。

ぱくりと開く傷を見ると、文次郎の体内がかいまみえる。

この男は、俺に会うために、腹を開かれたのを押さえながら降りてきたのか。





冷たい。





暗く冷たい感情が、俺を飲み込もうとしている。





悲しい。悲しい。文次郎。




文次郎。





食満は 腰から 小刀を抜き出した。





文次郎は今頃、暗闇の中に一人で居るのだろう。





咄嗟に、暗闇に文次郎の後ろ姿が目に浮かぶ。





壮大な漆黒に 誰かを探しているようだった。





「すぐに行く」





掠れた声でそれだけ述べると、後は 小刀の刺す瞑れた喉の音がした。





地に横たわる文次郎に、喉に刀が貫通した身体が覆い被さる。





今度生まれ変わったら





文次郎を幸せにしてやりたい





あの別れの鳥居で





また会おうな





それまで










さようなら













食満は闇の中、
文次郎を探し続ける。

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